特別なかき氷
登場人物
六花:阿波連六花(あなみ りっか)。甘いモノ大好き。
涼太:夏川涼太(なつかわ りょうた)。料理大好き男子。
湊:海崎湊(うみざき みなと)。まじめな学級委員長。男女不問。
一人称を「僕」としています。女性が演じる場合は、一人称や口調を変えるとやりやすいかもしれません。
宇田川:六花たちの担任兼、家庭科室管理担当。湊役の人が兼ね役。
【本編】
0:蝉の声が鳴り響く
0:学校のチャイム音、部活動で活気づく校内
六花:(背伸び)ん~っ! 夏だぁ!
涼太:六花、おはよう!
六花:あ、涼太! おはよう、今日も暑いねぇ~! 夏だねぇ!
涼太:元気だなぁ~……俺はもう暑くて死にそう。
六花:何言ってるの、夏は暑いのが定番! 暑ければ暑いほどよし!
涼太:はぁ……そりゃ、そうかもしれないけど、この暑さは異常だぜ?
六花:確かにまぁ……うん、暑すぎるとは思うけど……。
涼太:だろ? ……なんでこんな暑い日に、しかも夏休みにわざわざ登校しなきゃならないんだよ。
六花:文句言わないの! みんなのためなんだからさ!
涼太:……とか何とか言ってるけど。
六花:なに?
涼太:六花、お前はただ食べたいだけだろう?
六花:え? な、何のこと?
涼太:かき氷が食べたいだけだろうが!
六花:………何のことかな? 私は、ただ夏祭りを成功させたいだけであって……
涼太:おい、俺の目を見て言え。
六花:つ、ついでに! ほら、夏休みの家庭科の宿題も片づけられるし一石二鳥だしさ☆
涼太:じゃあ俺と湊で試食しておくから、六花はレポートまとめとか企画書作成よろしく。
六花:酷い! 涼太のかき氷楽しみにしてたのにぃ!
涼太:やっぱり食べたいんじゃないか。
六花:当たり前でしょう? 夏だよ? ジリジリと照り付ける日差し、汗が止まらない暑さ、そして広がる青空! そんな季節に食べるキンキンの冷たいかき氷!
六花:これを楽しみにしない人間なんていないわよ!
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0:背後から呆れながら登場する湊
湊:二人とも、昇降口で何やってるの。しかも、こんなにくそ暑いのに……。
涼太:お! 湊、おはよう!
六花:みーちゃん!
湊:りっちゃん、涼太、おはよう。
涼太:今日、先に家出るって言ってなかったか?
湊:言ったよ、ちょっとスーパー寄って追加食材買ってきた。
六花:りっちゃん、すごい! わぁ、色々ある。楽しみだなぁ~!
湊:それで、何で二人とも校舎に入らないで立ち話してるの。熱中症になるよ?
涼太:いやさぁ、六花が素直に認めないから。
六花:夏祭りのためっていうのも、課題のためっていうのも本当だもん! そして、涼太の美味しいかき氷を食べたいっていうのも本当だから仕方ないでしょ!
涼太:ようやく認めたな。かき氷が食べたいだけだって。
六花:だけじゃないもん!
湊:わかったわかった、事情はよくわかった……。でも暑いから早く家庭科室行こうよ。こんなところでいつまでも喋っていたら、僕たちが溶けて水になっちゃう。
六花:そうだね。
湊:鍵はどうする? 僕が取りに行こうか?
六花:あ、私が行ってくるよ! だって今日は私の我儘に付き合ってもらうわけだし。
湊:わかった、じゃありっちゃん、お願いね。
六花:まかせて。二人とも、家庭科室の前で待ってて!
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0:職員室の扉を開く六花
六花:失礼します、2年B組の阿波連六花(あなみ りっか)です。宇田川先生に用があってきました。
宇田川:阿波連(あなみ)さん、おはようございます。
六花:先生、おはようございます。家庭科室を開けてもらいたいんですけど。
宇田川:あぁ、例の企画のやつだね。今日は誰が来てるの?
六花:夏川くんと海崎くんです。
宇田川:わかりました。あとで様子を見に行きますが、くれぐれもケガのないようにしてくださいね。あと、何かあったらすぐに私を呼ぶように。
六花:はい、わかりました!
宇田川:阿波連(あなみ)さん。
六花:はい?
宇田川:全部終わったら、職員室にまた寄ってください。書類を一式渡したいので。
六花:……はい、わかりました。じゃあ、先生! 鍵、借りていきますね!
宇田川:ちゃんと調理前は消毒するんですよ!
六花:わかってますよ~!
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0:校舎3階、家庭科室前
涼太:……それにしても暑いなぁ。
湊:今日は特に暑いって天気予報で言ってたからね。ってか、言われたやつ色々仕込んできたけど……あれって美味しいのかな。
涼太:まぁ組み合わせ的にはちゃんと美味しいと思うぜ?
湊:確かに味的にはアリだと思うけど……あれをかき氷って言っていいの?
涼太:俺もそこは疑問だが……まぁ六花のアイディアなんだから多分大丈夫。
湊:まぁ……確かにね。りっちゃんのアイディアなら絶対成功する、……とは思うけど。
涼太:ま、食べてみりゃわかるんじゃないか?
湊:そうだね……あ、りっちゃんが来たよ。
涼太:六花! おっせーよ、暑くて死んじまう!
六花:ごめんね~! 宇田川先生とちょっと話してて。
湊:りっちゃん、ありがとう。
六花:待ってね、いま開けるから……(鍵を開ける)っと。よし、じゃあ早速!
涼太:うわっ、家庭科室あっつ!
湊:ずっと締め切りだったからね。涼太、エアコン入れてきて。
涼太:おう。
六花:みーちゃん、このスーパーの袋はどうすればいい?
湊:とりあえず冷蔵庫に入れておいて。僕は食器とか調理道具持ってくる。
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0:しばらく調理器具を出したり、袋から食材を出したり各々動き回る
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涼太:うっし、準備完了!
湊:とりあえずかき氷削る機械と氷、あとは具材。あ、写真はスマホのカメラでいい?
涼太:メモは適当に書いて、後でレポートにまとめりゃいいかな。
六花:じゃあ、早速……食べよう!
湊:え?
涼太:はぁ?
六花:じゃじゃーん! かき氷シロップ、買ってきちゃった!
涼太:いやいやいや、それじゃあ普通のかき氷じゃねぇか。
湊:りっちゃん、何のために家庭科室借りたと思ってるの?
六花:それもやるけど、まずは駆け付けいっぱい的な?
涼太:なぁ、それ意味わかってるか?
湊:わかってないと思うよ。
六花:まぁまぁまぁ! たっぷり汗もかいたし、まずはクールダウンしないと!
六花:二人とも、どれがいい? イチゴでしょ、メロンでしょ、あとブルーハワイ! 何味がいい?
湊:……じゃあ、僕はメロンかな。
涼太:そんじゃあ、俺はブルーハワイ。
六花:じゃあ私はいっちごー!
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0:かき氷を削る
六花:おおおおおお! 涼しげでいいねぇ~、氷を削る音がまたなんとも素敵。
涼太:湊、器取って。
湊:はい、これでいい?
涼太:あぁ、丁度いい。
湊:よし、じゃあシロップかけて……。はい、りっちゃん。どうぞ。
六花:やったー! いただきます。
六花:……くぅ~、冷たくて美味しい!
湊:はい、涼太。
涼太:サンキュ、いただきます。
湊:いただきます……はぁ、生き返る。
涼太:何か、この安っぽい感じがいいよなぁ~。
湊:屋台って感じするね。
六花:ねぇねぇ、涼太! みーちゃん! メロンとブルーハワイも頂戴!
涼太:は?
六花:せっかく3種類あるんだし、味比べしたいじゃない。
湊:りっちゃん……あのね、かき氷のシロップって、全部同じだよ。
六花:どういうこと?
湊:ベースの材料は全部一緒なの。違うのは色と香りだけ。まぁ商品によっては酸味料で工夫もしてるみたいだけど。色と香りで違う味だって脳が錯覚してるだけなんだよ。
六花:そうなの? 騙されたぁ~。
涼太:六花、夏祭りに行くと必ず「究極のかき氷作る!」って意気込んで、シロップ混ぜてたもんな。
六花:はぁ……。何を混ぜてもまずくならなかったのは、同じだったからなのね。
湊:りっちゃんのそういう素直なところ、いいと思うよ。
六花:みーちゃん、それ褒めてる?
湊:褒めてる、褒めてる。それより、クールダウンしたことだし、試食してみよう。
涼太:それじゃあはじめますか。
六花:かき氷フルコース!
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0:少し間
湊:え~っと、まずはスープと前菜からだよね。
六花:氷の量はどうするの? 私、削っておくよ~。
涼太:じゃあ、冷凍庫に冷やしてある茶色い氷を持ってきて削っておいて。
六花:はーい。……涼太、これでいいの?
涼太:おう、ちょっと粗めに削ってくれ。かけたときに溶けて消えないように。
湊:涼太、シロップ……って言っていいのかわからないけど、スープ用はこれだよね?
涼太:それそれ、最後に少し生クリーム加えてくれ。
湊:了解。あぁ、水っぽくしない方がいいんだよね?
涼太:うん、だからちょっとだけ加える感じで。
涼太:あぁ六花~、それ削り終わったら次は赤い氷削っといて。そっちは少し細かめ。
六花:わかったぁ。
涼太:えっと、トマトとモッツァレラチーズは角切りで……、大葉を細切りにして。あと生ハムっと。
六花:涼太、出来たよ~。
涼太:サンキューな。うん、いい感じだ。
六花:ねぇ、この氷って何でできてるの?
湊:それは食べてからのお楽しみだよ。
六花:……何で涼太とみーちゃんは知ってるのに、私だけ知らないのよ。提案者は私なんですけど!
湊:だからこそでしょ。りっちゃんには、純粋にお客さん目線で食べてもらいたいんだよ。
涼太:そうそう、そんでこうしてほしい、あぁしてほしいって要望言ってくれよ。
六花:うーん……、わかった!
湊:さて、では六花お嬢様。一品目はスープでございます。
六花:あはは、みーちゃん、何それ!
湊:フルコースだし、ちょっと雰囲気出してみようかと思って。
六花:いいね! こほんっ。本日のスープは何かしら。
湊:本日は、ビシソワーズとなっております。
六花:いっただきまーす。……ん! 美味しい!トロッとクリーミーなソースにコンソメの風味。氷の触感が絶妙!
涼太:ベースはコンソメを凍らせた氷。そこにドロッとしたビシソワーズソースをかけて、アクセントにブラックペーパーをちょっとだけかけてみた。
六花:コレ、完全に冷製スープだ! でもちゃんとかき氷の触感があってかき氷だ!
湊:続いては前菜です。本日は、トマトとモッツアレラのサラダ、バジルソース掛けですよ。
六花:うわぁ、見た目もきれい! 赤い氷に、トマトが宝石みたいにのってる!
涼太:モッツアレラは細かくして、全体にちりばめてみた。
六花:ねぇ、このお花はなに? ピンク色でかわいい。
涼太:それは生ハムを花びらみたいに重ねて作ったやつだよ。
六花:いただきます……んんっ! これは、紛うことなきサラダだ!
六花:大葉とバジルって意外と相性いいんだね。
湊:大葉のこと和製ハーブとか和製バジルとか呼ぶ人もいるくらいだしね。種類は全然違うけど、相性はすごくいいよ。
六花:すごいね、本当にサラダ食べてるみたいな感じ!
六花:(食べ進める)……あ、ねぇ写真!
涼太:六花に出す前にちゃんと撮ってあるよ、ほれ。
六花:お、いいねぇ。
湊:何か、こうしてほしいとか要望はある?
六花:とりあえずは大丈夫かな。サイズはどうする?
涼太:変わり種だし、あんまり量はない方がいいよな。
六花:私、これくらいで丁度いいと思うよ。
六花:そうだ! セット割りとかどう?
湊:いいかも、その方が買ってくれそうだしね。
六花:それじゃあ価格案はっと……(メモを取る)
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0:少し間
六花:ふぅ~、食べた食べた。美味しかったぁ! あぁでもちょっと冷えてきちゃったね。
湊:はい、あったかい紅茶だよ。
六花:ありがとう!
涼太:さすがにエアコンの効いた部屋で、これだけかき氷食べたら寒くなるよな。
六花:当日は外でやるんだし問題ないけどね。
湊:とりあえず、ドリンク風かき氷と2種類のデザートかき氷は成功だね。
涼太:ドリンクがコンビニのヘロヘロ風になっちまったのは俺としては納得いかないけど……。
六花:でも美味しかったし、見た目も綺麗だからよかったよ? 炭酸ゼリーをシロップにするとか、思いつくこと自体がすごいよね。
涼太:あぁほら、購買前の自販機に入ってるじゃん。振って飲むヤツ。あれをヒントにしたんだよ。
湊:デザートはもうただの豪華なかき氷だったね。
六花:私は黄色尽くしのかき氷が好き! パイナップルとかグレープフルーツとか、爽やかで美味しかった。
湊:僕はグレープと桃の奴が美味しかったかな。
涼太:ここまでは成功でよかった。
湊:……さてと、問題は……。
六花:メインディッシュ!
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涼太:………。
湊:………。
六花:ん? 二人ともどうしたの?
涼太:いや、一応考えてはきたんだけどな……。
湊:これ、もはやかき氷ではないんじゃないかってちょっと思ってて。
六花:とりあえず見せてよ!
涼太:えっと……これ、なんだがな。
六花:……豚、しゃぶ? 氷はさっきのコンソメに似てるけど……ちょっと濃い色。
湊:えっと、冷しゃぶソーメン。
六花:え?
涼太:めんつゆベースの氷にソーメン挟んで、豚しゃぶと小ねぎちらして。
六花:かかってる茶色いソースは?
湊:えっとそれは……
六花:(食べる)こ、この味は……ゴマダレ?
湊:うん……。
涼太:これ、もはやかき氷では――
六花:面白い!
湊:え?
六花:これ、絶対ウケるよ! みんな面白がるって!
涼太:マジで?
六花:味も美味しいよ。普通にご飯な感じ。
涼太:まぁまずくはないだろうけど……
六花:いいじゃん、お祭りなんだし! それに、学生が考えましたってだけで喜んでくれるよ!
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0:宇田川登場。湊役の方は宇田川役をお願いいします。
宇田川:そうそう、君たち学生のいいところは「自由」なところです。
六花:あ、宇田川先生!
宇田川:随分面白いものが出来上がったみたいだね。
六花:先生も食べます?
宇田川:いいの? では、お言葉に甘えて……はは、普通に美味しいね。冷しゃぶソーメンだ。
涼太:これを「かき氷」って言っていいのか、悩みどころなんですけどね。
宇田川:いいんじゃないかな、最近は「おかず氷」っていうのも流行っているみたいだし。
涼太:おかず、氷?
宇田川:確か奈良が発祥らしいけど、フォアグラとかほうれん草のおひたしとかキャビアとか……まぁ色々面白いものがあるらしいよ。
六花:そうなんだぁ、じゃあ私たちが考えたやつもありってことですよね!
宇田川:そうだね。これなら、夏祭りイベントも成功しそうだ。
六花:先生、優勝したら何かあるんですよね。
宇田川:みんなには内緒だけど、優勝クラスには学食1週間フリーパス券が贈呈される予定だよ。
涼太:え、マジですか! すげぇ。
宇田川:でも、本来の目的は学校が地域の人たちに感謝をするイベントなんだから、そこのところは忘れないように。
六花:まかせてください! みんなが楽しめるように頑張ります!
宇田川:頼もしい。それじゃあ、職員室にいるから終わったらまた声かけてね。頑張って。
六花:はーい。
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0:空が茜色に染まる夕暮れ
0:後片付けを終えた3人
涼太:これでよし、湊~! そっちはどうだ?
湊:終わったよ。りっちゃんは?
六花:レポート完了! 当日のレシピメモもできた。
湊:そしたらこれを元に買い出し班に連絡しておく。装飾とかの設営班にも連絡してメニューとか先に作れるものは作ってもらうようにしよう。
涼太:さすが湊、仕事が早い。
湊:学級委員長なんだから当然でしょ。……お、もう既読ついた。
六花:……楽しみだね、夏祭り。
涼太:あぁ、そうだな。
六花:………。
湊:りっちゃん?
六花:ううん、何でもない! あ、私そろそろ帰らないと。
涼太:あぁ、じゃあ鍵は俺らが返しておくから行けよ。
六花:ありがとう!
湊:気を付けてね、りっちゃん。
六花:うん!
湊:次の集まりの日、決まったらまたラインする。
六花:はぁい! じゃあ、またね! ばいばぁい。
:
:
0:職員室、鍵を返却する涼太
涼太:失礼します、宇田川先生に用があってきました。
宇田川:夏川君、お疲れ様でした。あれ、阿波連(あなみ)さんは?
涼太:六花なら用事があるからって先に帰りました。
宇田川:え、そうなんですか? 帰りにもう一度寄ってくれといったのに……。
涼太:かき氷食べて満足したから忘れたんですよ、あいつ。
宇田川:ははは、阿波連(あなみ)さんらしい。それにしても参ったな。
涼太:急用だったんですか?
宇田川:えぇ、この書類を渡したくて。
涼太:(転校に関する書類を目にする)……!先生……これ……。
宇田川:そういえば、夏川君たちは阿波連(あなみ)さんの家とお隣さん同士でしたよね? これを彼女に届けて――
涼太:六花にはラインしておくんで、本人に渡してください。
涼太:これ、大事な書類だし……俺、万が一汚したりしたら責任取れないし。
宇田川:そうですか? それじゃあ、お願いしますね。
涼太:はい、わかりました……。あ、先生。これ、家庭科室のカギ。
宇田川:はい、お疲れさまでした。では、阿波連(あなみ)さんに伝えておいてくださいね。
涼太:はい、失礼しました。
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0:昇降口で涼太を待つ湊
湊:あ、涼太。お帰り……って、涼太?
涼太:なぁ湊……。お前さ、六花から何か聞いてるか?
湊:何かって何をさ。
涼太:……実は、さ……
:
:
0:2週間後
0:夕暮れの学校、校庭では生徒たちが夏祭りの後片付けを行っている
0:その光景を、一人屋上で眺める六花
六花:……楽しかったなぁ、夏祭り。
六花:みんな楽しそうにしてくれたし、いっぱい写真撮って喜んでくれてたな。
六花:一位は逃しちゃったけど……でも、楽しかった。
六花:ほんと、楽しかった……な。
:
0:扉が開くと、聴きなじみのある声が六花の耳に飛び込んでくる
涼太:お、いたいた! 探したぞ。
湊:りっちゃん、急にいなくなるのやめてよね。
六花:涼太、みーちゃん。どうしたの?
涼太:どうしたって、急にお前が消えるからだろ。
六花:ごめん、なんか……ここから眺めたかったんだ。楽しかった一日の締めくくりに。
湊:……ここで過ごす最後の締めくくりに、じゃないの?
六花:え……。
涼太:六花、引っ越すんだろ? ……明日。
六花:なんで、知ってるの?
涼太:……かき氷の試作した日さ。偶然、宇田川先生に聞いちゃったんだよ。
六花:……みーちゃんも知ってる?
湊:涼太から聞いた。
六花:……そっか。
涼太:なんで、黙ってたんだよ。
六花:……淋しかったから。
湊:黙っていなくなる方が淋しいじゃないか。
六花:そうだけど! しんみりしたくなかった。だって、お祭りは楽しい気持ちでいたいじゃん。
涼太:……六花。
六花:……明日、出発前にはちゃんと二人に言うつもりだったよ。でも、今日までは……このお祭りまでは楽しい気持ちでいたかったから。
湊:はぁ……りっちゃんって、こうと決めたら突き進むからね。
涼太:ほんと、俺らの気持ちは置いてけぼりでな。
六花:だって――
涼太:ほい。
六花:え。
湊:僕と涼太から、りっちゃんへのご褒美と送別祝い!
六花:わぁ……綺麗、リンゴ、飴?
涼太:俺と湊で考案した、六花スペシャル!
湊:りんご飴をテーマにしたかき氷だよ。
六花:……食べて、いい?
湊:もちろん。
涼太:早く食べねぇと、溶けちゃうぜ。
六花:……いただきます。
六花:
六花:美味しい! すごく、美味しいよ! 涼太、みーちゃん!
湊:よかった。
涼太:色々試行錯誤したんだからな!
湊:りんごの色が変わらないようにとか、結構大変だったよね。
涼太:飴細工とか作ったことなかったから苦労したんだぞ!
湊:涼太、ホント器用だよなぁ……。
涼太:湊が色々調べてくれたから助かったぜ。
湊:まぁりっちゃんのためなら、頑張れるよね。
涼太:ん、六花?
湊:どうしたの、りっちゃ――
六花:ありがとぉ、二人とも……。
湊:……うん。
六花:すごく美味しいよ、すごくすごく……美味しい、の。
涼太:よかった……。
六花:ありがと……本当に、ありがとう……。
六花:……ごめん、ね。
涼太:いいよ、気にすんな。
湊:引っ越したって、連絡できないわけじゃないんだからさ。
六花:うん。
涼太:離れたからって、友達終わるわけじゃないだろ?
六花:うん!
湊:りっちゃん、また食べようね。
涼太:3人でかき氷をさ。
六花:うん! また、作ってね!六花スペシャル!
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:
0:十年後、蝉の声が鳴り響く静かな住宅街に佇むカフェ
六花:皆さん、こんにちは! 六花です!
六花:今日は、今話題のかき氷屋さんに来ています! 夏といえばかき氷! どんなかき氷が食べられるんでしょうか、早速入ってみましょう。
六花:お邪魔します!
涼太:こんにちは。
六花:こちらは、カフェ「ロクモノガタリ」のオーナー、夏川涼太さんです。
六花:夏川さん、本日はよろしくお願いします。
涼太:よろしくお願いします。
六花:夏川さん、こちらでいただける変わり種かき氷ってどんなものなんですか?
涼太:夏季限定の「かき氷フルコース」です。
六花:かき氷フルコース? それって一体どんなものなんですか?
涼太:それはですね――
:
:
湊:はい、カット。
湊:涼太、緊張しすぎ。顔少しこわばってるよ。
涼太:仕方ないだろう。こういうの慣れてないんだよ。
六花:みーちゃん、どう? 可愛く撮れた?
湊:うん、ばっちりだよ。さすがりっちゃん。
湊:あとは、これに音楽付けたりテロップ付ければ完成だよ。
六花:楽しみ! みーちゃんが、こんなことできるなんてびっくり。
湊:大学でいろいろ勉強したからね。趣味の域で申し訳ないけど。
六花:そんなこと――
涼太:ほれ、騒いでないで! できたぞ。
六花:あ。
湊:はは、懐かしいなぁ。
涼太:お待たせしました。俺たちだけの特別メニュー。
:
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0:バラバラになっても構いません。
六花:りんご飴氷!
涼太:りんご飴氷!
湊:りんご飴氷!
0:3人の楽しそうな笑い声が響く店内
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0:終
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