三毛猫骨董品店
登場人物紹介
桔梗:二ノ宮桔梗(にのみや ききょう)。三毛猫骨董品店の新人店員。おっちょこちょいで可愛い子。
遥都:九条院遥都(くじょういん はると)。三毛猫骨董品店の店員。沈着冷静マイペースな小悪魔。
葉月:朝比奈葉月(あさひな はづき)。三毛猫骨董品店店長。しっかり者のお姉さん。
睦月:泉龍寺睦月(せんりゅうじ むつき)。三毛猫骨董品店副店長。気さくなお兄さん。
0:それでは思うままに、演じてください。3・2・1…Act
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桔梗:「モノ」には魂が宿る
遥都:ツクった人の想いが、ツカった人の想いが
葉月:「想い」はカタチとなり、私たちに「想い」を訴えかける
睦月:ここは、「想いが込められたモノ」を扱う不思議なお店
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桔梗:いらっしゃいませ、三毛猫骨董品店へようこそ。
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0:落ち着いた雰囲気のアンティークショップ。
葉月:お会計は、二千円です。
葉月:はい、プレゼント包装ですね。承っていますよ。
葉月:こちらのペンダントですと―――
桔梗:朝比奈さん!ラッピング、私がやります。
葉月:え、そう?じゃあお願いしようかしら。
桔梗:はい!
桔梗:それでは、こちらから贈りたい方のイメージを選んでいただいて……はい、はい。
桔梗:それでは、少々お待ちください。
桔梗:できましたらお呼びいたしますので、店内でお待ちください。
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0:奥から備品を抱えた遥都と睦月がやってくる。
睦月:遥都くん、大丈夫?重かったら無理しなくていいからな。
遥都:泉龍寺さん……僕も一応男ですから、これくらい余裕ですけど。
睦月:あ、ごめんごめん。そうだよね……でもほら、それ見た目以上に重いし。
遥都:僕のこと、女か何かと勘違いしてます?
睦月:そんなことないよ~!だって俺、遥都くんのこと大事だからさ。
遥都:泉龍寺さんって……ときどきわからないんですけど。
睦月:つれないなぁ。はぁ……。
睦月:というか……、睦月でいいっていつも言ってるのに……。
遥都:いや、さすがに副店長に気安く言えるわけ――
睦月:はい、睦月!
遥都:………。
睦月:ほら、遥都くん!む・つ・き!
遥都:……む、睦月……せ・ん・ぱ・い!
睦月:よっしゃ!遥都くんから名前呼びいただきました!
遥都:はぁ……やれやれ……。
葉月:ちょっと、泉龍寺くん!店内で騒がないでよね。
遥都:朝比奈さん、包装用の素材追加で持ってきました。
葉月:九条院くん、ありがとう。重かったでしょう?
遥都:いえ、これくらい大丈夫ですよ。
遥都:それにしても、今日はやけに人が多いですね。
葉月:クリスマスが近いからね。この時期はプレゼント探しで惹き寄せられる人が多いのよ。
遥都:なるほど。確かにうちで扱っている商品は、大事な人を想う心が詰まったものが多いですからね。
睦月:この時期は忙しいけど、「想い」が次に繋がっていくのを見るのはいいもんだよな。
葉月:そうね……あぁ、泉龍寺くん、それは向こうの棚に上げておいて。
睦月:はいよ……よいしょっと。
睦月:これでいいか?
葉月:えぇ、ありがとう。泉龍寺くんが身長だけは高くて助かるわ。
睦月:「だけ」って酷くない?
睦月:俺、結構色んなところで葉月の役に立ってると思うんだけど――
葉月:朝比奈!もしくは店長って呼べって言ってるでしょ?
睦月:いいじゃんかよ~
葉月:仕事中なんですけど。
睦月:は、はい……え、待って。その笑顔、超怖いんですけど。
遥都:睦月先輩は、本当に懲りない人ですよね。
睦月:遥都くんまで!酷い!
葉月:九条院くん、相手にしなくていいわよ。
遥都:わかりました。
睦月:葉月~!
葉月:なぁに?泉龍寺くん♡
睦月:う……。朝比奈……悪かったって。
遥都:そういえば、二ノ宮はどこに行ったんですか?
葉月:あぁ……ラッピング作業してるわよ?
遥都:え?大丈夫なんですか?二ノ宮ひとりで。
葉月:大丈夫よ。危ない商品じゃないから。
葉月:むしろ、あの子の「想い」も上乗せされれば、さらに良い効果があるでしょうし。
遥都:そう、ですか……なら、いいんですけど。
葉月:心配?
遥都:え?
葉月:まぁ大丈夫だとは思うけど、私も心配だから……
葉月:九条院くん。悪いけど、二ノ宮さんの様子を見に行ってくれる?
遥都:あ、はい!
0:遥都、作業ルームへと向かう。
睦月:遥都くん。本当に桔梗ちゃんのこと、大事にしてるんだなぁ。
睦月:まぁ桔梗ちゃんって、ほっておけない感じするもんな。
睦月:守ってやりたくなるというか、可愛いというか。
葉月:……そうね。
葉月:(小声)だから九条院くんも惹かれたんでしょうね。
睦月:……葉月……。
葉月:さてと、ちょっと空いてきたから、商品の補充作業しちゃいましょう。
睦月:お、おう。
葉月:ほら、突っ立ってないで!
葉月:高いところの商品はお願いね、泉龍寺くん。
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0:作業ルームでラッピング包装をする桔梗。そこへ遥都がやってくる。
桔梗:ふふ……あぁ……幸せ。早く君に会いたいな……。
遥都:桔梗?作業は順調?
桔梗:あ、遥都くん~。ふふふ、うん。みて!綺麗でしょ?
遥都:うん、すごい綺麗だね……って、桔梗?
桔梗:なぁに?……私、すごく幸せ……早く……会いたい。
遥都:桔梗……君、いま「想い」に酔ってるよ。
桔梗:え?そんなことないよ?
桔梗:ふふふ、遥都くん~……だぁいす――
遥都:(指または手を鳴らす)。
桔梗:あ……。
遥都:おはよう、桔梗?
桔梗:あぁ……私、また……
遥都:まぁでも自我もかなり残ってたし……ほら、ちゃんと仕事もできてるよ。
桔梗:おぉ、ちゃんと包めた!
桔梗:しかもめちゃくちゃ綺麗に包装できてる!やるじゃん、私!
遥都:そうだね、でも……ちょっと酔っちゃってたよ。
桔梗:かなり甘い想いが詰まってたから……これ。
遥都:まぁ悪い想いじゃないからいいけど、無理しちゃだめだよ?
桔梗:わかってるってば!遥都くんは過保護すぎるよ。
遥都:過保護っていうより、君の安否を心配しているんだけど?
桔梗:ごめんなさい……でも、私も三毛猫屋の一員だし!
遥都:わかってるよ。葉月さんも桔梗の気持ちを考えて任せたのもわかってる。
桔梗:少しでもできる仕事増やしたい。
遥都:ただねぇ……桔梗?君は焦りすぎ。
桔梗:そんなこと!
遥都:これ!なんでつけてないの。
桔梗:………あ。
遥都:せっかく僕と葉月さんで作ったブレスレット……。
遥都:作業するときには必ずつけてって言ってるだろ?
遥都:君は酔いやすいんだから、ちゃんとつけて作業してくれないと任せられないって葉月さんから散々言われたじゃないか。
桔梗:……ごめん。
桔梗:葉月さんに一人で任せてもらえるなんて思ってなかったから、嬉しくてつい舞い上がって……忘れた。
遥都:はぁ……。このことは――
桔梗:言わないで!葉月さんには言わないで!お願いっ
遥都:言わないよ。大丈夫。
遥都:でも今後はうっかり忘れないようにしてね?僕と約束して。
桔梗:うん、わかった。約束する!
遥都:じゃあ、ラッピングできたし……お客様が待ってるだろ?
桔梗:うん、届けてくるね。
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0:三毛猫屋店内
桔梗:お待たせいたしました。こちらでよろしいですか?
桔梗:素敵な結婚記念日になるといいですね。
桔梗:ありがとうございました。
:
葉月:二ノ宮さん。お疲れ様、すごく綺麗に包めていたわね。
桔梗:朝比奈さん!私、頑張りました。
葉月:ふふふ、よしよし!よく頑張ったね、桔梗ちゃん。
桔梗:っ!……葉月さぁぁぁぁん。
葉月:あらあら、何かあったの?
桔梗:……いえ。な、なにもありません。
葉月:そう?それにしてもすごく素敵な出来だったわね。あのラッピング。
桔梗:えぇ……前の持ち主の「想い」とお客様の奥様に対する「想い」がすごく素敵だったのでイメージがどんどん湧いてきました。
葉月:そうね。あれは本当に互いを想いあう心が詰まったものだったからね。
桔梗:……素敵ですね。色んな人を渡り歩いて、想いをつないできているペンダント。
葉月:彼氏から彼女へ、夫から妻へ、母から娘へ……
葉月:それだけじゃない、性別に関係なく大事な人への想いを伝える「モノ」として渡り歩いてきたものだからね。
桔梗:あれを作った人……すごく幸せそうにしていました。
葉月:え?
桔梗:さっき、石を磨いていた時……若い男性が見えたんです。
葉月:……やっぱり、桔梗ちゃんはすごいわね。
桔梗:ん?えっと……
葉月:何でもないわ。さぁ、午後も頑張りましょう。
桔梗:ん?……まぁいっか。午後も頑張ります!
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0:夕方、最後の客が店を後にする。
桔梗:ありがとうございました。
遥都:ふぅ……ようやくお客さんが捌けたね。
葉月:遥都くん、桔梗ちゃん!悪いけど、これ、裏の倉庫に持っていってくれる?
桔梗:はぁい!えっと、この段ボール二つでいいんですよね?
睦月:あ、重そうだから俺が後で運んでおくぜ?
葉月:泉龍寺くんは先にこっち!
睦月:はいよ……ったく、人使い荒いなぁ。
葉月:なんか言いました?
睦月:いいえ、仰せのままに!葉月さま。
葉月:ほぉ~……泉龍寺くんは夕飯いらないんだ。
睦月:嘘!嘘です!ごめんって!
睦月:ほら!すぐやるから、な?
遥都:睦月先輩って本当に懲りない人だなぁ。
桔梗:ふふふ、でもあの二人って本当に仲いいよね。
桔梗:いいなぁ……
遥都:……桔梗?
桔梗:よし、じゃあ!運んじゃおうか!
遥都:そうだね。あぁ桔梗、こっちのほうが軽いから、こっち持って。
桔梗:遥都くん、ありがとう。
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0:倉庫内。様々な商品が並んでいる。
桔梗:よいしょっと。ここでいいかな。
遥都:うん、いいと思う。後で整理しに行くって葉月さんたちが言ってたし。
桔梗:それにしても、すごいよねぇ……
遥都:そうだね、いろんな「想い」があるね。
桔梗:………。
遥都:大丈夫?酔った?
桔梗:ううん、大丈夫。ブレスレットがあるから。
遥都:あ、ちゃんとつけてきたんだ。
桔梗:さっきは忘れちゃったけど、今度はね。
桔梗:…………あ。
遥都:ん?……桔梗?
桔梗:………呼ん、でる。
遥都:呼んでる?
桔梗:……泣いてるの?どうしたの?
遥都:桔梗……?おい、桔梗?
桔梗:………君、どうしたの?
遥都:桔梗!触るなっ!
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0:三毛猫屋店内で作業をする葉月と睦月。
睦月:なぁ……桔梗ちゃんのこと、倉庫に行かせて大丈夫だったのか?
葉月:そうね……まぁ、心配ではあるわね。
睦月:ラッピング任せたり……今日はどうした。
葉月:今日は私も調子がいいから、何かあっても助けられるし。
睦月:そうか。
葉月:桔梗ちゃんはちゃんと力の使い方を会得しないと……
葉月:いざという時に、どうにもならないでしょう?
睦月:まぁな。
葉月:だから少しずつでも慣れて、使い方を身体で覚えていかないとね。
葉月:特にあの子の力は大きいから。
睦月:うちにとって、本当にでかい買い物したよ。
葉月:雇って正解だったわね。
睦月:桔梗ちゃんといい、遥都くんといい……いい子たちだ。
葉月:そうね、あの子たちがいれば……救えるものが増えるかもね。
睦月:……葉月、お前だって頑張ってるよ。
葉月:あら、どうしたの?急に改まって。
睦月:いや、その……言いたくなっただけだ。
葉月:ふふふ……そうね、「想い」を「カタチ」にすることは大切だからね。
睦月:あぁ……それがズレると……
葉月:「悲劇」が生まれる……
0:倉庫から物音が聞こえる。
葉月:何、今の音。
睦月:倉庫からだったな……
葉月:桔梗ちゃんたちに何かあったのかしら。
睦月:とりあえず行ってみよう。
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0:倉庫内。倒れた桔梗を抱きかかえる遥都。
遥都:桔梗!おいっ、桔梗!
桔梗:違う……そうじゃない、私は……違う、不幸なんかじゃ……
遥都:完全に「想い」に惹っぱられてる……
遥都:桔梗!しっかりしろ!自分を保て!
葉月:桔梗ちゃん!遥都くん!
遥都:葉月さん!
睦月:二人とも!大丈夫か?何があった!
遥都:睦月先輩!
遥都:桔梗が……突然、呼んでるって言いだして、この箱に触れたら……
葉月:この箱……どうして?奥にしまっておいたのに。
睦月:……俺が昼間倉庫に来た時には、こんな箱なかったぞ。
遥都:葉月さん、これって何なんですか。
葉月:……とりあえず、どうしてこれがここにあるのかは後回しね。
葉月:泉龍寺くん、これを開けてくれる?
睦月:あぁ……。
0:箱を開けると、そこにはアンティークの兎の貴婦人人形が入っていた。
遥都:アンティーク、ドール?
睦月:へぇ……兎の貴婦人人形か。
葉月:このアンティークドールは、持ち主を不幸にすると言われている人形なの。
遥都:不幸?
葉月:大切な人と離れてしまう人形。
葉月:元々は猫の紳士人形とペアで大切にされていた人形だったのよ。
葉月:でもね、どんな経緯があったのかはわからないけど、二つは離れ離れになってしまった。
葉月:どうやら持ち主もこの人形と同様に離れ離れになってしまったらしく……
葉月:持ち主の悲しみは、人形に宿り、そして離れてしまう恐怖や悲しみの「想い」が込められた人形になってしまった。
睦月:……そんで、流れ流れて三毛猫屋に来たってわけか。
睦月:お前が触れないってことは、相当深い「想い」が詰まってるんだろうな。
葉月:それもそうだけどね……本心がわからないのよ。
遥都:本心?
葉月:えぇ……離れてしまう恐怖や悲しみは伝わってくるんだけど、それだけじゃない気がするの。
睦月:どういうことだ?
葉月:何かもっと「伝えたい想い」がある気がするの……
遥都:桔梗は、倒れる前に「泣いている」って言っていました。
睦月:「泣いている」……ってことは、やっぱり大事な奴と離れて悲しいってことじゃ――
桔梗:……違う、の……。
遥都:桔梗!よかった、意識がっ
桔梗:……この子、違うの。
葉月:桔梗ちゃん、何が見えたの?
桔梗:……この子、独りぼっちなんかじゃないの。
睦月:ん?どういうことだ?
睦月:この人形には番となる紳士人形がいて、離れ離れになっちまって、それで悲しみが……
桔梗:ううん。離れてなんていない……。ちゃんと一緒いるの。
桔梗:遥都くん……人形のカバン……開いてみて?
遥都:カバン?……あぁ、これのこと?
桔梗:うん、開けてみて。
遥都:……あ、ガラス、玉?
睦月:……なんでガラス玉なんかがここに?
桔梗:これはね、「彼」なんだよ。
遥都:……彼?
葉月:……これ。この「想い」。
桔梗:葉月さんも……気づきました?
葉月:……そっか、そういうことか。
睦月:え?葉月もわかったのかよ!
桔梗:もともとね……この人形の持ち主は夫婦でね……
桔梗:旦那さんは戦争で亡くなってしまったの。
桔梗:旦那さんは、戦場にこの紳士人形を連れて行ったんだけど……
桔梗:壊れてしまって、戻ってきたのは瞳に使われていたガラス玉だけだった。
桔梗:奥さんはとても悲しんだ。
桔梗:でもガラス玉には旦那さんの「想い」が詰まっていた。
桔梗:死は別れではない。離れ離れでも最後はまた再会できる。
桔梗:ちょっとだけ、先に行って待っているから……後からゆっくりおいで。愛してるって。
桔梗:奥さんは、その「想い」を知ってすごく喜んだの。
桔梗:そしてその「想い」が詰まったガラス玉を貴婦人人形のカバンに入れて持たせた。
桔梗:紳士人形と貴婦人人形がいつまでも一緒にいられるように……。
睦月:……え、それって変じゃないか?
睦月:持ち主も人形も、離れ離れの悲しい想いなんてしてないのに、なんで真逆の話になったんだ?
遥都:どこかで「想い」が誤って伝わってしまった。
睦月:……あぁ……なるほど。
遥都:「想い」が誤って伝わることは多かれ少なかれある。
遥都:きっとどこかで「幸せな想い」から「悲しい想い」に間違って伝わってしまった。
睦月:そんで、たまたまこの人形の持ち主が、大切な人と離れ離れになってしまい、その悲しみが上書きされてしまったってわけか。
睦月:そんでもって……負の連鎖が始まり、離れてしまう悲しい人形の物語がどんどん色濃くなって、結果的に「不幸な人形」になっちまった……ってことか。
遥都:……「想い」はどうしても目に見ない部分がありますからね。
睦月:俺たちみたいに「想い」を汲み取って、正しく伝える奴と出会えなかったんだろうな。いままで。
桔梗:葉月さん……これ。
葉月:えぇ、わかってる。ちゃんと正しい「想い」を伝えてあげましょう。
葉月:そして今度は幸せな時間を過ごせるようにしてあげましょう。
桔梗:……ありがとうございます。この子も……喜んでる。
遥都:あ……
睦月:はは……優しい声だな……
葉月:……この子のメンテナンス――
桔梗:私に、やらせてください。
葉月:ふふ、言うと思ったわ……。
桔梗:だめ、ですか?
葉月:大丈夫よ、もうあなたとその子は「いい絆」ができているみたいだし。心配ないでしょう。
葉月:でも何かあったら心配だから……
遥都:……ん?あ。
葉月:うん、遥都くん。サポートお願いね。
遥都:はい!桔梗……全力で支えるから。
桔梗:遥都くん!うん!ありがとう。
葉月:随分深くまで「想い」がしみ込んじゃってるからね。
葉月:大変だけど、頼んだわよ!二人とも。
桔梗:はい。
遥都:任せてください!
:
0:作業ルームで人形を見つめる桔梗と遥都。
遥都:今日は大変だったね。お疲れ様。はい、ココア。
桔梗:遥都くん、ごめんね。心配かけて。
遥都:うん……突然びっくりしたけど、桔梗が無事でよかった。
桔梗:……。
遥都:桔梗?どうしたの?
桔梗:あのね!……わざとじゃないんだけどね……
遥都:ん?
桔梗:この子がね……その……あの……遥都くんのね……
遥都:……え。ま、まさか……
桔梗:……えっと、その……想……
遥都:まって!
桔梗:ご、ごめん。
遥都:……はぁ。こんなタイミングでかぁ……。
桔梗:……。
遥都:桔梗……。
桔梗:うん。
遥都:……好き、だよ。君のことが。
桔梗:………うん。
遥都:君のことが大切なんだ。初めて会った時からずっと……
桔梗:………。
遥都:ごめんね、困らせて。仕事仲間なのに――
桔梗:私も!
桔梗:……私も、遥都くんのこと……好き。
遥都:え……本当、に?
桔梗:私……、遥都くんは葉月さんのことが好きなんだって思ってた。
遥都:え?葉月さん?なんで?
桔梗:だって!葉月さんは何でもできるし、大人だし、優しいし……
桔梗:仕事もできるし、お料理もできるし……
桔梗:それに、葉月さんと話してるときの遥都くん……楽しそうだし。
遥都:……ぷ、あははははは。
桔梗:え?ちょっと!なんで笑うの?
遥都:いや……ごめん、可愛いなぁと思って。
桔梗:ちょっと!どういうことよ。
遥都:そんなに僕のこと……好きでいてくれたんだ。
桔梗:う……、そうだよ。
遥都:そっか。うん……ありがとう、桔梗。
桔梗:あの、私……こんなだけど……
遥都:大丈夫だよ、そのままの桔梗が好きだから。
遥都:これからも、桔梗のこと守らせてね。
桔梗:……うん!
桔梗:あ……。
遥都:「お幸せに」……か。
桔梗:ずっと一緒にいようね。
遥都:そうだね。「この二人」のようにね。
:
:
0:三毛猫屋店内。
睦月:葉月、お疲れ様!
葉月:ん……あぁ睦月くん……お疲れ。
睦月:桔梗ちゃんが無事でよかったな。
葉月:そうね……。でもさすがって感じかな。
睦月:何が?
葉月:あの人形の本当の「想い」を感じ取ることができるなんてね。
睦月:あぁ……。
葉月:私には聞き取ることができなかった……
睦月:葉月……
葉月:だめね、店主として。先輩として。
葉月:なんか……自信なくしそう。
睦月:葉月は……よくやってると思うよ。
葉月:……睦月くん?
睦月:師匠がいなくなって……この仕事を継ぐ者がいなくなりそうになった時……。
睦月:葉月が必死で勉強して、努力して、師匠の店を守ったのはすごいって思う。
葉月:……だって、この仕事は……「想い」をつなぐ大切な仕事だから。
葉月:守りたかったの……
葉月:たくさんの「想い」を。師匠の「想い」を。
睦月:師匠も絶対喜んでくれてるさ。
葉月:……ありがとう。
睦月:確かに、桔梗ちゃんは天才だと思う。逸材だ。
睦月:だからといって、葉月が劣ってるわけでもないし、葉月は葉月の良さがある。
葉月:睦月くん……
睦月:俺だってさ、遥都くんがすごすぎて、自信なくしそうな時もあるけどさ……
葉月:え、そうなの?
睦月:そりゃあるさ。先輩なのに……年上なのに!って思うことあるぜ。
葉月:ふふ……でも、睦月くんは気配り上手で、周りのことよく見ていて……
葉月:遥都くんにはない良さがいっぱいあるわよ。
睦月:ありがとう。葉月も同じなんだ。俺と同じ。
葉月:……そうね。ありがとう。ちょっとだけ元気出た。
睦月:……よかった。
葉月:………。
睦月:………。
睦月:なぁ、葉月。あの、さ……
葉月:ん?……なに?
睦月:なんで、あのアンティークドールのメンテナンスさ……二人に任せたんだ?
葉月:そうね……、たぶんあの二人なら「新しい想い」を込めてくれると思ったから。
睦月:「新しい想い」?
葉月:互いを愛する「結びの想い」。
睦月:……葉月、お前。
葉月:じれったかったのよね、あの二人。いいきっかけになるでしょ。
睦月:………葉月はいいのかよ、それで。
葉月:ん?なんで?
葉月:……むしろごめんなさい、貴方の気持ちを考えたら申し訳ないけど。
睦月:へ?なんだよそれ。
葉月:………え?
葉月:だって、睦月くん……。桔梗ちゃんのこと、好きなんじゃ……
睦月:なんでそうなるんだよ!
睦月:というか、葉月のほうこそ遥都くんのこと……
葉月:え?どうしてそうなるの?
葉月:遥都くんはどっちかっていうと弟みたいだなって。桔梗ちゃんは妹みたいだし……
睦月:俺だって桔梗ちゃんは可愛い後輩で、遥都くんも同じで……
葉月:……ぷ、あははははは
睦月:なんだよ……勘違いかよ。
葉月:何やってるんだろうね、私たち。
睦月:想いは「誤って」伝わることも多い……からなぁ。
葉月:ねぇ、睦月くん。
葉月:……好きよ、ずっとずっと……好きだった。
睦月:俺も!……俺もさ、昔から好きだ。
葉月:この店を、一緒に守ってほしい。いつまでもずっと。
睦月:あぁ……よろしくな、葉月。
:
桔梗:葉月さん、睦月さん!とりあえず応急処置終わりました。
遥都:桔梗の体調も大丈夫です。僕が保証します。
桔梗:ちょっと!遥都くん!?
遥都:桔梗はすぐ無理するから、今後も僕がしっかり面倒見ます!
葉月:ふふ、すっかりいいパートナね。
桔梗:ちょっと!葉月さんまで~!
睦月:遥都くん!男として、しっかり守ってやれよ!
遥都:睦月先輩に言われなくても、わかってますよ。
葉月:さ、今日は大変な一日だったから……しっかりご飯食べましょうか。
睦月:今日の夕飯は?
葉月:桔梗ちゃん、何が食べたい?
桔梗:え!いいんですか?
葉月:もちろん、今日一番頑張ってくれたのは桔梗ちゃんだからね。
桔梗:えっと、じゃあじゃあ……ナポリタン。
睦月:お!いいね、葉月のナポリタン!
桔梗:やったぁ!
遥都:桔梗、よかったね。
桔梗:うん!
葉月:じゃあ、とりあえず三人とも。もう少しだけ店の整理してくれる?
葉月:すぐ作るから。
桔梗:はぁい。
遥都:まかせて下さい。
睦月:なんかあったらすぐ言えよ?手伝うから。
葉月:はいはい。わかったわ。
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桔梗:「モノ」には魂が宿る
遥都:ツクった人の想いが、ツカった人の想いが
葉月:「想い」はカタチとなり、私たちに「想い」を訴えかける
睦月:ここは、「想いが込められたモノ」を扱う不思議なお店
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葉月:いらっしゃいませ、三毛猫骨董品店へようこそ。
桔梗:あなたの「想い」は、何ですか?
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