物語への旅券
電波を通して、ネットワークを通して広がるその世界は
ステージの上で、スクリーンの中で広がるその世界は
ありきたりの日常に沢山の色と刺激を与えてくれた
そんな世界に目を輝かせ、胸を躍らせ、憧れ、夢見ていた
でも「その世界」に飛び込む勇気などなかった
憧れは、憧れのまま
夢の世界に飛び込む勇気も、機会も、時間も、余裕もなかった
だから、ただ「その世界」を客席から眺めるだけだった
「ワタシハ、ココニイルヨ」
誰かの声がした
「私は、ここにいるよ」
ふと声がした方を見ると、一羽の小さな青い鳥が何かを咥えていた
青い小鳥は、私の前にやってくると、咥えた紙を差し出してくる
手に取った私は思わず息をのんだ
私が受け取ったのは「憧れの世界への旅券」
何年も何十年も憧れた世界
でも決して踏み入れることができなかった世界
胸の鼓動が早くなる、息が詰まりそうになる
私なんかが踏み入れていい世界なのかな、大丈夫かな
来るなって言われないかな、帰れって言われないかな
「私は、ここにいるよ!一緒に遊ぼう!」
また声がする。可愛らしい女の子の声が
一緒に……遊ぼう……
私も一緒に遊んでいいのかな。何にも知らない私なんかがいいのかな
握りしめた旅券をもう一度見る
夢じゃない、本当に夢の世界に行ける旅券が、目の前にあるんだ
私は勇気を振り絞り、大きく深呼吸をすると、その旅券を空にかざした
「ようこそ、物語を紡ぐ世界へ!」
先ほどから聞こえていた声の主がニコリとほほ笑む
彼女の案内に耳を傾けながら道を進んでいく
「さぁ、ここで説明は終わり。行ってらっしゃい!」
彼女に背中をぽんっと押されて飛び込んだ世界は、まるで夢のようだった
沢山の人が、沢山の物語を創っていた
私がずっと見つめてきた世界の内側だった
沢山の扉が並ぶ中、私は一つの扉を叩く
「あの、初めてなんですけど……大丈夫ですか?」
私は恐る恐る中の住人に声をかける
返ってきた言葉は「大丈夫、ゆっくりやりましょう」という優しい言葉だった
扉を閉め、奥へと進む
部屋の主は、優しくこの世界の説明をしてくれた
物語の紡ぎ方、創り方を
服を整え、物語の内容を頭に入れ、準備をする
「じゃあ、始めようか」
部屋の主が、私に声をかけてくれる
私はお願いしますと返事をすると、小さく深呼吸した
幕が上がる。世界が広がる。
ふと、舞台の下を見ると、たくさんの人がこちらを見ていた
私がずっといた場所
私はそこからずっと世界を見つめていた
でも今は、見つめていた先にいる
緊張する。怖い。
失敗したら?世界を壊してしまったら?
「頑張ってください!」
客席から飛んできた言葉。
私に向けられた、シンプルだけど心がこもった言葉。
とても嬉しかった。勇気をもらった。
もう一度深呼吸をする
カウントダウンが始まる
5・4・3・2・1……
こうして、私の世界が始まった。
あれから多くの月日が流れた
あの時、頑張れって背中を押してくれた君は、今では大事な人になった
それから沢山の人に出会えた
素敵な物語を書き綴る人、素敵な世界を創り上げる人
共に切磋琢磨して励ましあえる人、泣いたり笑ったりして支えあえる人
そして、叱ってくれて支えてくれる尊敬できる人
辛いことも沢山あった、苦しいことも沢山あった
やめてしまった方がって思ったことも、向いてない世界なんじゃないかって思ったこともあった
でもそれ以上に
楽しいことがたくさんあった、嬉しいことがたくさんあった
何よりも「憧れの世界」にいられることが、何よりも幸せだと感じている
私の大切な人たちへ
出会ってくれてありがとう、一緒に遊んでくれてありがとう
あの時、勇気を出して飛び込んだ憧れの世界は
素敵なもので満ち溢れていた
だからこれからも、この世界で頑張っていきたい
いや、頑張っていきます
この場所がなくなっても
これまでの絆がなくなるわけじゃないから
また新たな場所でも、また同じように仲良くしてください。
ねぇ、こちらの世界を見ている君?
そうそう、この言葉を聞いている君だよ!
君もこっちの世界においで!
とっても楽しいよ!素敵なことがたくさんあるよ!
勇気を出してこっちにきてごらん!
素敵な出会いが待ってるから。
私は……
私たちは「ここ」にいるよ!
あとがき
私が声劇をはじめるきっかけとなったのが、2023年4月30日にサービスを終了した【ボイコネ】というアプリでした。
このアプリがきっかけで、たくさんの人と出会い、物語と出会い、そして私自身も物語を綴る側になりました。
ボイコネがなかったら今でも声劇シナリオ作成やボイスドラマ制作、声劇の配信活動などしていなかったと思います。
だからこそ、私にとって【ボイコネ】というアプリは人生を変える大きなきっかけをくれたアプリであり、大切なアプリでした。
大切な場所が終わるとき、感謝と、そしてこれからも形を変えて続いていってほしいという願いを込めて書いた作品です。
出会ってくれた皆さん、本当にありがとうございます。
願わくば、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
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