去る想いは、日々疎し
登場人物
蒼 :天照蒼(あまてる あお)役の人がタップ。男女不問。ご自身に合った一人称、口調に変えてください。
リコ:川沿いにある小さな祠の神様(狸)。男女不問。
※伊奈利神社の神主役と兼ね役があります。
テト:川沿いにある小さな祠の神様(猫)。男女不問。
町役場職員で蒼の上司と兼ね役があります。
【本編】
0:伊奈利神社境内
0:多くの屋台が立ち並びた、くさんのモノたちで賑わっている
蒼:(子供)すごい! キラキラがいっぱいだ!
テト:へへへ! そうだろう! 僕のとっておきだからね!
リコ:これはウカ様の力だから、テトが偉そうにするのは違うでしょ?
蒼:(子供)テト、リコ。ありがとう!
リコ:蒼が元気になってよかった。
テト:ねぇ蒼、来年も遊ぼうね!
リコ:テト……それは――
蒼:(子供)うん、約束!
テト:やった、約束! 絶対だよ!
蒼:(子供)もちろん!
テト:あ、それじゃあ僕、ウカ様に呼ばれてるから行ってくるね~。
蒼:(子供)テト~、またあとで!
リコ:……。
蒼:(子供)リコ、どうしたの? 元気――
リコ:蒼、ごめんね。
蒼:(子供)ん?
リコ:さようなら。
蒼:(子供)リコ? ねぇリコ! り――(ミュートでぶつ切り)
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0:目覚ましのアラーム音(用意できれば)
0:蒼の自室
蒼:(M)夏になると思い出す。
蒼:(M)名前も顔も、どこの誰かも思い出せない。
蒼:(M)ただ、ぼんやりとした記憶はとても眩しくて心が温かくなる。
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0:目を覚まし、ぼんやりと天井を眺める蒼
蒼:……君たちは、誰?
蒼:(あくび)まぁいっか。……げっ、やばい。もうこんな時間!
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0:S町役場地域振興課
蒼:おはようございます。
テト:(上司)おはよう、天照(あまてる)さん。
蒼:遅くなって申し訳ありません。
テト:(上司)何言っているんですか、始業時間前ですし大丈夫ですよ。
蒼:あはは……どうも前の会社のクセが抜けなくて。
テト:(上司)新人は始業一時間前には仕事を開始するってやつですか?
蒼:はい、冷静に考えたら訳が分からない話ですよね。
テト:(上司)ここではそんなことありませんから。安心してください。
蒼:……はい、ありがとうございます。
テト:(上司)ところで、天照さんにお願いしたい仕事があるんですよ。
蒼:はい、なんでしょう。
テト:(上司)君は昔、この町で暮らしていた時期があったんですよね?
蒼:えぇ、両親が仕事で忙しかった時期に、祖父母の家があるこの町でしばらく暮らしていました。
テト:(上司)では伊奈利(いなり)神社はご存じですか?
蒼:えぇ知っています。
テト:(上司)実は今年、二十年ぶりに伊奈利神社の祭事をやることになりましてね。
蒼:祭事?
テト:(上司)要は夏祭りです。
蒼:なるほど……えっと、それで?
テト:(上司)天照さんに、その運営をお願いしたいんです。
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:
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0:蝉の音が鳴り響く境内
蒼:……って笑顔で任されちゃったけど、僕でいいのかな。
蒼:それにしても、結構立派な神社なんだな。
リコ:(神主)天照さんですか?
蒼:どうも、地域振興課の天照蒼と申します。
リコ:(神主)どうも、伊奈利神社の神主をやっております伊奈利と申します。
蒼:えっと、今回夏祭りの運営を担当させていただくことになりました。よろしくお願いいたします。
リコ:(神主)こちらこそ、よろしくお願いいたします。
蒼:あの、二十年ぶりだとお伺いしたのですが……
リコ:(神主)えぇ、まぁ色々ありましたから。
蒼:そうなんですね。
リコ:(神主)気になりますか?
蒼:あ、いや……まぁ。
リコ:(神主)二十年前の祭りの当日、酷い大雨が降り、町の川が氾濫する大災害があったんですよ。
蒼:………。
リコ:(神主)人にも家にも田畑にも……たくさんの被害が出ましてね。それ以来、その記憶が離れなくて祭りをするという雰囲気ではなくなってしまったんです。
蒼:そうだったんですね。
リコ:(神主)でも今年でこの町もなくなってしまう。そう聞いたとき、最後にちゃんとこの町でお祭りをやろうって話になりましてね。
蒼:それで。
リコ:(神主)えぇ。だから天照さん。どうか、ご協力をお願いいたします。
蒼:も、もちろんです! 立派なお祭りにしましょう!
リコ:(神主)ははは、とても心強いです。
蒼:あの、少し境内を見て回ってもいいですか?
リコ:(神主)もちろんですよ。ごゆっくり。
:
:
0:社殿の扉から蒼たちの様子を見ているリコとテト
テト:ねぇ、あれって蒼だよね? 蒼でしょ?
リコ:テト、落ち着いて!
テト:ようやく見つけた! ねぇ、早く遊びたい! 蒼と遊ぶって約束したんだよ?
リコ:わかっているよ。でもまだダメ。
テト:どうして?
リコ:ウカ様に言われただろう? むやみに人に姿を見られてはいけないって。
テト:う~……。
リコ:とりあえず神主様がいなくなるまで様子を見よう。
リコ:えっと……今どんな感じかなぁ。
リコ:(少し間)
リコ:あ、話が終わったか。よしテト、移動する……ん?
リコ:テト? おい、テト?
:
:
0:境内を歩く蒼。蝉の音が鳴り響く。
蒼:なんかいいなぁ~。のんびりしてる感じがして。風が(気持ちいい――)
テト:(かぶせる)あ~お~!(飛びつく)
蒼:うわっ! だ、誰!
テト:蒼、遊ぼ! 約束したもんね!
蒼:へ? えっと、君は誰? どこの子?
テト:忘れちゃったの? テトだよ! 蒼ってばドジなんだね。
蒼:テ、ト?
テト:うん、そうだよ! 僕はテト! 君は蒼!
蒼:えっと……。
テト:蒼、僕のこと……覚えてないの?
蒼:ご、ごめん。頑張って思い出すから。
リコ:テト! 勝手に行くなって言っただろう! 何やってるんだ!
テト:あ、リコ!
蒼:……。
リコ:まったく、ウカ様に怒られても知らないよ?
テト:だって、蒼に早く会いたくて。
蒼:……し……しっぽ?
リコ:あ、忘れてた……。
テト:しっぽだよ? 耳もあるよ!
蒼:え…え? ええええええええ!?
テト:あははは! 蒼、変なの。何でそんなにビックリしてるの?
蒼:えっと、き、君たちは?
テト:テトとリコだよ!
リコ:はぁ……。えっと、私がリコ。そしてこっちのちっこいのテト。
テト:テトはね、猫の神様なんだよ! すごいでしょう!
リコ:テトは黙ってて。私が説明するから。
テト:はぁい。
蒼:猫の神様?
リコ:正確には、この伊奈利神社の神様であるウカ様の補佐をしているんだ。
蒼:そうなんだ、それで君は。
リコ:私は……狸の神様って言えば何となくわかるかな?
蒼:あぁ、その尻尾。どこかで見覚えがあると思った。猫と狸の神様なんて、珍しいね。
リコ:珍しいって?
蒼:あ、いや。ほら、神様の使いってよく狛犬とか稲荷狐とかが有名だから。猫とか狸ってあまりいないよなぁって。
リコ:驚かないの? 嘘だって思わないの?
蒼:う~ん……信じられないっていうのはあるけど。
リコ:けど?
蒼:君たちが嘘をついているとは思えないし、世の中には不思議なことだっていっぱいあるから。
テト:ねぇねぇ、思い出した? テトと遊ぶ約束、覚えてる?
蒼:ごめん、テトちゃん。それは――
テト:テト! 変なの付けなくていいの!
蒼:あ~はいはい、テト。
テト:うん、蒼!
リコ:テト……。蒼、ごめんね。
蒼:いいんだよ、思い出せない僕が悪いんだから。
リコ:それは……
蒼:それに、君たちといるとすごく懐かしい気持ちになるんだ。
テト:ほんと?
蒼:うん。だから、ちょっと忘れてるだけですぐ思い出すから大丈夫だよ。
テト:蒼、大好き! ねぇ、ねぇ何して遊ぶ?
蒼:あははは、ごめんね。遊びたいんだけど、僕はまだ仕事があるんだ。
テト:やだ、遊ぶ!
リコ:テト、蒼は忙しいんだって。それに私たちもウカ様のお手伝いをしないと。
テト:お祭りの準備?
リコ:そう。
蒼:え? 神様も準備とかするんだ。
リコ:うん、するよ。しかも久しぶりだからね、結構大変なんだよ。
蒼:なんだか、人間と同じなんだね。
テト:踊りの練習したり、星屑集めしたり、鈴作ったり、毎日大変なんだよ!
リコ:テトはよくサボってウカ様に怒られてるじゃないか。
テト:だって退屈なんだもん。
蒼:……ねぇテト、リコ。
テト:なぁに?
蒼:僕に色々教えてくれないかな? ここの……伊奈利神社のお祭りのこと。
リコ:どうして?
蒼:僕の仕事は、伊奈利神社のお祭りをやることなんだ。
テト:そうなの? 蒼も一緒に準備するの?
蒼:うん、そうだよ。でも僕は伊奈利神社のことあんまり知らなくて。
リコ:……わかった。ウカ様に許可をもらってくるからちょっと待っていて。
蒼:ありがとう、リコ。
:
0:テトの尻尾や耳をじっと見つめる蒼
蒼:……。
テト:ん? 蒼、どうしたの?
蒼:あ、いや……えっと……。
テト:触る?
蒼:へ?
テト:テトのこと、撫でたい?
蒼:い、いやいや、そんな――
テト:いいよ! はい、どうぞ!
蒼:えっと……それじゃあ、失礼して……。
テト:ふへへへ、蒼の手、あったかい!
蒼:テトの毛はふわふわだね。柔らかくて、ふわふわで…綺麗な……黒色、で……
:
0:蒼の脳裏に突然浮かぶ風景
0:夕暮れの河川敷の風景、小さな子供と一匹の猫が戯れている。
蒼:(子供)テト、おいで。
テト:にゃーん
:
:
0:ぼーっとする蒼。
テト:…お……あ、お? ねぇ蒼ってば!
蒼:え、あぁごめん。
テト:どうしたの? ぼーっとしちゃって。
蒼:いや、なんか懐かしい気持ちになってさ。
テト:ふ~ん。
リコ:蒼、テト。お待たせ。
テト:あ、リコ! お帰り~。
リコ:ウカ様の許可がでたから、こっちにきて。
蒼:えっと、神主さんに許可は……。
リコ:大丈夫だよ、伊奈利さんにもちゃんと許可を貰ったから。
:
:
0:伊奈利神社、社殿内
0:グラスを差し出すリコ
リコ:どうぞ。
蒼:あ、ありがとう。……へぇ、不思議な色だね。
テト:夕焼け茶だよ~。すっごく美味しいよ!
蒼:いただきます。……ほんとだ、甘酸っぱくてなんか落ち着く味だね。
リコ:夕焼け空を摘み取って煎じたお茶なんだ。
蒼:夕焼け空を……ははは、さすが神様。
蒼:それにしても、リコはしっかりしてるんだね。テトとあんまり変わらないのに。
リコ:こんな姿してるけど、私はもう何百年も生きている神様だからね。
蒼:え、そうなの?
リコ:だから子供扱いしないでね、蒼。
蒼:あ、ごめん。
リコ:それで、伊奈利神社のことについてだっけ。
蒼:そうだね、あと祭りのことも。
テト:はいはい! テト、わかるよ! ウカ様はね、食べ物の神様なんだよ!
リコ:間違ってはないけど……。まぁ豊作を司る神様ってこと。
蒼:この地域は田畑が昔から多いもんな。
テト:それで、空の神様にお願いするために、踊るんだよ。
リコ:あの人、舞を見るのがすごく好きな人でね。
テト:あとは、みんなが元気でいられるように、星屑を集めて鈴に閉じ込めて配るんだよ!
リコ:ウカ様の力を込めてね。
テト:それから、みんなで笑う! 空の神様は笑顔が大好きだから、みんなで笑うんだよ。
蒼:あの、ごめん。話が全然ついていけないよ。
蒼:つまり伊奈利神社のお祭りは、空の神様のためのものってこと?
リコ:それもある。そしてウカ様の力を強めるためでもあるんだ。
蒼:力を強める?
テト:神様はね、信じてもらえないと消えちゃうんだよ!
蒼:……消える?
リコ:人間の言葉を借りるなら「信仰心」ってやつ。
私たちは皆に信じてもらえば力は強くなるし、忘れ去られればそのまま消えてなくなってしまう。
蒼:なるほど。
リコ:お祭りは、神様に力を与える行事なんだ。そして力を貰った神様は、より良い世界のために他の神様と協力する。
蒼:僕たちは何をすれば……。
テト:遊ぼうよ! 蒼!
蒼:えぇ?
リコ:……楽しむこと、そしてできれば私たちを信じてほしい。
蒼:楽しんで、信じる。
リコ:さっきも言ったけど、私たちは皆が笑顔でいることが好きだし、それが力になる。
テト:遊ぶと楽しいし、いっぱい笑顔になれるよ!
リコ:そう。だから、町の人たちがここで笑顔になってほしい。
蒼:わかった! そうと決まればさっそく準備しなきゃ!
リコ:私たちも沢山おもてなしの準備するね。
蒼:あ、そうだ。テト!
テト:なに?
蒼:何して遊びたい?
テト:え!
蒼:テトが遊びたいものも沢山準備する。
テト:ほんと! えーっとねえーっとねじゃあ――
:
:
0:祭り当日
0:たくさんの屋台が立ち並び、多くの人たちが祭りを楽しんでいる
テト:うわ~! 蒼、リコ! 見てみて、人がいっぱいだぁ~!
蒼:ははは、すごいだろ。まさに町中お祭り騒ぎだよ。
リコ:懐かしいなぁ……。
蒼:お年寄りたちもみんな言っていたよ。こんな光景がまた見られるなんて思わなかったって。
テト:ねぇねぇ、あれ食べたい! 赤くてキラキラしたやつ! あ、あれ何? ふわふわの雲!
テト:あぁあっちもいいなぁ。
テト:あ、魚! 魚がいる! 食べていい?
蒼:あははは、順番にね。それにあれは金魚っていって、食べ物じゃないから食べちゃだめ。
テト:そうなの? 残念。
リコ:テト、遊びたいのはわかるけど、まずはやることがあるだろう?
テト:はぁい。じゃあ、行ってくるね! 蒼も見ててね!
蒼:いってらっしゃい。
リコ:大丈夫かなぁ……。
蒼:リコはずいぶんと心配性なんだね。いっぱい練習していたし大丈夫だろう。初めてでもないんでしょ?
リコ:……初めてだよ。テトは。
蒼:そうなの?
リコ:うん、テトが舞うのは今日が初めて。
蒼:そうなんだ。
リコ:それまでは私の仕事だったから……。
リコ:ねぇ蒼、テトの晴れ舞台。見てあげてね。
蒼:もちろんだよ。リコも行こう。
リコ:うん。
:
:
0:社殿前に組まれた特設の演舞台
蒼:(モノローグ)
蒼:静かに演舞が始まる。
蒼:祭囃子に合わせて、テトと伊奈利さんが舞う。
蒼:テトの手に握られた神楽鈴(かぐらすず)は、テトと僕で作ったものだ。
蒼:水、土、火、風、空……それぞれの輝きを閉じ込めた不思議な鈴。
蒼:テトが神楽鈴を鳴らす度、辺りがキラキラと輝く。
蒼:それに合わせて伊奈利さんが舞う。
蒼:その光景は「神秘的」という言葉がぴったりだった。
:
:
0:少し間
テト:疲れた~! お腹空いたぁ! 遊びたい~!
リコ:はいはい、よく頑張ったね。
テト:ちゃんとできた?
リコ:うん、よくできていたよ。
蒼:ほら、テト!
テト:わぁ! 赤いキラキラ! それにふわふわ雲!
蒼:はい、リコも。
リコ:ありがとう。
テト:いっただっきまーす! ん~美味しい! 幸せの味がする!
リコ:そうだね、美味しい。
蒼:他にも色んな屋台があるから見て回……あれ?
テト:どうしたの? 蒼。
蒼:えっと……あれ? こんなに店……あったっけ?
リコ:あぁ……祭りは、人と私たちがどちらも「楽しむ」ものだから。
テト:夕立ソーダがある! それに明星の金平糖だ!
蒼:夕立に明星? あ、もしかして……。
リコ:そう、あのヘンテコなお店はこちら側の……人ならざるモノたちのお店だよ。
蒼:それに、よく見たら……ははは、奇妙なお客さんたちも沢山だ。
リコ:じゃあ、約束通り。
テト:遊ぼう! 蒼!
:
:
テト:(M)それから僕たちはたくさん遊んだ!
リコ:(M)金魚すくい、射的、輪投げ、型抜き。
蒼:(M)河童の皿投げ、不知火の炎当て、小豆の早洗い。
蒼:(M)人と、人ならざる者がみんな等しく笑顔だった。
:
蒼:……あれ、僕……この光景――
テト:蒼、早く! 次はあれやろう。
蒼:はいはい、わかったよ!
リコ:……。
:
:
0:静まり返った社殿の入り口に腰掛ける三人
テト:はあ~楽しかった!
リコ:テト、はしゃぎすぎ! まったく……でもよかった。
蒼:二人とも、大丈夫? はい、流星ソーダ。
テト:わーい、いただきます! ん~冷たくて美味しい。
リコ:蒼、色々とありがとう。
蒼:どうってことないよ。みんな楽しそうで本当によかった。
リコ:二十年ぶり……。
蒼:大変な出来事だったんだってね。
リコ:そうだね、私たちにもどうにもできなかった。
蒼:神様なのに?
リコ:……。
蒼:あ、ごめん。責めているわけじゃないんだ。
リコ:いいんだ、町の人たちもそう思っていたから。
テト:なんかね、しばらくはウカ様のことを悪く言う人ばっかりだったんだよ!
リコ:テト!
テト:ウカ様のせいじゃないのにさ。でも……ようやくわかってもらえたからいいんだけどね。
蒼:……。
リコ:神様だからって天候を自由自在にできるわけじゃないんだ。自然の力は、自然に動いている。ほんの少しだけ自然の力を借りて、ほんの少しだけ祝福を配っているだけで、何かできる力なんてないんだ。
蒼:そうなんだ。
テト:神様って、万能じゃないんだよ! だから、神様も人間も一緒に助け合わなきゃいけないの。
蒼:テト。
テト:……って、ウカ様が言ってた。
蒼:あははは、そっか。そうだね、みんなで助け合わないとだね。
蒼:これからは毎年お祭りやるから。毎年、遊ぼうな。テト。
テト:うん!
リコ:テト……だめだよ。
テト:リコ?
リコ:ちゃんと、お別れしないと。今度はちゃんと……さよならしないと。
蒼:リコ? どうしたの、さよならって――
リコ:私たちはもう来年まで保てない。
蒼:どういうこと。
リコ:私たちは確かにウカ様の……伊奈利神社の遣いとしての存在。
リコ:でも私たちの存在は、みんなからとっくに忘れ去られているから。
蒼:え…。
リコ:言ったよね? 私たちは「信じてもらえなければ存在できない」って。
リコ:今日が最後なんだ。本当はテトだけでもウカ様の傍にって思ったけど、私と離れられないから。
テト:……リコ。
リコ:私たちがいなくても、ウカ様が生きてけるように……あとは頼んだからね。蒼。
蒼:なんだよ、急に……そんな……。
テト:……蒼。
蒼:テト?
テト:蒼、ありがとう。蒼、大好きだよ! 蒼……ずっと元気でね。
蒼:まって、ちょっと、二人とも?
リコ:蒼、ごめんね。
蒼:……っ!
リコ:さようなら
:
0:伊奈利神社社殿で目を覚まし飛び起きる蒼
蒼:いくな!
蒼:(しばらくぼんやりとする)
蒼:……あれ、僕……こんなところで何を……。
リコ:(神主)おや、天照さん。こんなところで寝たら風邪をひきますよ。
蒼:すみません……えっと。
リコ:(神主)お祭りはもう終わりましたよ。
蒼:あの、ここに誰かいませんでしたか?
リコ:(神主)いえ、おひとりでしたが――
テト:(上司)天照さん! いたいた、こんなところに。
蒼:あ……河野さん。
テト:(上司)探しましたよ。後片付け、始まりましたから行きましょう。
蒼:えっと……はい。
テト:(上司)あぁそういえば、さっき君にこれを渡すように頼まれたんですよ。
蒼:……す、ず?
テト:(上司)それから天照さんに、「忘れないで」と伝えて欲しいと。
蒼:っ!
テト:(上司)天照さん、どうしました?
蒼:テト……リコ……。
テト:(上司)大丈夫、ですか?
蒼:……はい、大丈夫です。だいじょうぶ、です。
:
:
0:数日後、夏の日差しが眩しい午後
0:河川敷にたたずむ祠前
蒼:あ、それはあっちにお願いします!
蒼:ふぅ……ようやく綺麗になったかな。上出来、上出来。
リコ:……こんなに立派な物建てる必要あるの?
テト:あははは、おうちがすっごく綺麗になった!
蒼:ちゃんと、神様らしくしないと! 誰も信じてくれないだろ?
リコ:……どうしてわかったの?
蒼:思い出したんだよ。二十年前。水害で僕は流されてここまできた。
リコ:テトが必死で助けてっていうからさ……。
テト:だって、蒼はいつも僕に美味しいモノくれたり、遊んでくれたからさ!
リコ:そうだったの? はぁ……餌付けされてたわけね。
テト:餌付けって何?
リコ:猫の姿でうろうろして、ご飯貰っていたんでしょ?
テト:だってそのほうがみんな優しいから。
蒼:ありがとう。あの日……テトが僕を助けてくれたんだね。
テト:えへへ、だって蒼といっぱい遊びたかったから!
蒼:リコも、ありがとう。
リコ:どういたしまして。それで、そのお礼がこれ?
蒼:うん、新しい祠(おうち)。
テト:すっごい! ねぇ、入ってみていい?
蒼:いいよ、どうぞ。
テト:わーい!
リコ:……蒼、ありがとう。
蒼:どういたしまして。
蒼:いつまでも、忘れないよ。……忘れさせない。
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:
蒼:君たちの存在は、いつまでも守るから。
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:
0:終
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