夫婦の誕生日
0登場人物紹介
0:性別転換,口調変更に関しては可能な作品です。
0:ただし,魔女役の人が二人の兄妹に愛されるお話ですのでご注意を。
アリ:アリアドネ。緑の魔女。フレイとフレイヤのことをとても大切に思っている。
フレイ:フレイヤの兄。アリが大好き。
フレイヤ:フレイの妹。アリが大好き。
0:物語
ア リ:むかしむかし、ある国に、とても恐ろしい森がありました。
ア リ:森には、恐ろしい魔女が住んでおり、人々を甘いお菓子で誘い込むと、ぱくりと食べてしまっていたそうです。
ア リ:ある日、その森の近くに住む、とても貧しい家族がいました。
ア リ:父親と母親、そして幼い兄妹の4人で住んでいましたが、生活は苦しく、明日食べるパンすらありませんでした。
フ レ イ:「俺たちはどうなるのかな?自分たちの分もないのに、どうやって子供たちに食べさせようか?」
フレイヤ:「じゃあ、こうしたらどう?明日の朝早く、子供たちを森の木の一番茂っているところへ連れていくの。
それから、私たちは仕事に行って、子供たちをおいておくの。あの子たちは家へ帰る道がわからないだろうから、縁を切れるわよ。」
フ レ イ:「何を言っているんだ」
フレイヤ:「仕方ないだろう、どのみち、ここにいたって、あの子たちは生きてはいけない。
それなら森の中で、最後に甘いお菓子をたらふく食べて死んだ方が幸せじゃないか」
フ レ イ:「甘いお菓子って……まさかお前……」
フレイヤ:「森には人食い魔女がいる。でもすぐには殺さず甘いお菓子をたらふく食べさせてくれるそうじゃないか。だったら、ここにいるよりも幸せだろうさ」
フ レ イ:「……確かに、このままでは飢え死にをするだけだ。それならば……」
フレイヤ:「そうだろう。だからさ……」
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フ レ イ:こうして、幼い兄妹は魔女のいる森に置き去りにされました。
フレイヤ:幼い兄妹は森を彷徨い、一軒のお菓子でできた家を見つけました。
フ レ イ:あまりにもお腹がすいていた兄妹は、夢中でお菓子の家を食べ始めました。
フレイヤ:クッキーの壁、飴細工の窓、チョコレートでできた庭木。
フ レ イ:夢中で頬張るあまり、家の主が帰ってきたことに気づかなかった兄妹は、あっさりと人食い魔女につかまってしまいます。
ア リ:「お前たちは私の貴重な食糧だ、おとなしくしな」
フ レ イ:魔女はそういうと、兄を牢屋に、妹には首輪をつけ、逃げられないようにしました。
フレイヤ:しかし、知恵のある兄妹は力を合わせ、悪い魔女を倒すことに成功します。
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ア リ:魔女を倒した兄妹は、魔女の家にあったたくさんの宝石や食べ物をもって、自分たちの家へと帰りました。
ア リ:兄妹が生きて帰ってきたこと知った両親は大層おどろきましたが、兄妹が持ち帰った宝石で家族は生涯苦労することはなく、幸せに暮らしましたとさ。
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:
0:パタンと本を閉じ、不満そうに口を尖らせる妹のフレイヤ。
フレイヤ:……なんて、本当にばかばかしい言い伝え。
フ レ イ:わかったから、本を乱暴に閉じるなよ。
フレイヤ:だって、こんなひどい話ってある?
フ レ イ:気持ちはわかるけど、ここでそんなことを言っても仕方ないだろう。
フレイヤ:そうだけど――
0:扉が開き美しい女性、アリアドネが現れる。
0:フレイヤはアリに抱き着く。
ア リ:おはよう……二人とも、相変わらず早いわね。
フレイヤ:アリ!おはようっ
ア リ:おはよう、フレイヤ。今日もいい子ね(頬にキス)
フレイヤ:アリも、今日も綺麗で美しいわ!
ア リ:えっと……あ、ありがとう。
フ レ イ:フレイヤ、アリが困っているだろう。すぐに抱き着く癖、やめろ。
フレイヤ:うるさいなぁ、お兄ちゃんには関係ないでしょ。
フ レ イ:まったく……。アリ、ちゃんと眠れた?
ア リ:ありがとう。ぐっすりと眠れたわ……(お腹が鳴る)あっ。
フ レ イ:朝食の準備はできてるから顔洗ってきて。
ア リ:恥ずかしい……。
フ レ イ:大丈夫だよ、どんなアリも可愛いから。
ア リ:フレイったら!私の方が年上なのよ?
フ レ イ:知ってるよ、綺麗だし可愛いし、アリはとっても魅力的な大人の女性だよ。
ア リ:……。
フレイヤ:アリ、お湯の準備できたから来て!
ア リ:え、あぁ、今行くわ。
:
0:バスルームに行くと,フレイヤが洗面台にたっぷりのお湯を張っていた。
ア リ:お待たせ。
フレイヤ:はい、じゃあ座って。
ア リ:フレイヤ……、私一人でもできるわよ?ずっと一人で暮らしてきたんだし――
フレイヤ:でも今は私がいるから私にやらせて。
ア リ:……はぁ。じゃあお願い。
フレイヤ:うん!
:
0:蒸しタオルを作るとアリの顔をゆっくりふいたり,髪をとかしたりと世話を焼くフレイヤ。
ア リ:はぁ……気持ちいい……。
フレイヤ:でしょ!
ア リ:それにとてもいい香りね。
フレイヤ:今日はオレンジスイートの香油にしてみたの。リラックスできていいかなって。
ア リ:すごく好き。
フレイヤ:やった!でももっとアリの好きなもの聞かせてね。いろんなものを探してあげるから。
ア リ:ありがとう。
フ レ イ:フレイヤ、そろそろ出られそう?
フレイヤ:ちょっと、お兄ちゃん!そんなにせかさないでよ!
フ レ イ:オムレツを作るタイミングを考えなきゃいけないんだから仕方ないだろう。
フレイヤ:もう少しよ!あと5分くらい。
フ レ イ:了解。
ア リ:……なんだかごめんね、フレイヤ。フレイもだけど。
フレイヤ:いいんだよ、私たちはアリが大好きだから。それにこういうときは――
フ レ イ:ありがとうって言ってほしいな。
ア リ:聞こえてたの?
フレイ:もちろん、アリの声ならどこにいても聞こえるよ。
ア リ:そっか。……うん、二人ともありがとう。
:
0:モノローグ
ア リ:昔々、ある国に薬学にとても詳しい少女がおりました。
ア リ:少女の作る薬はどんな病にも効き、たくさんの人たちの命を救いました。
ア リ:その功績から、「緑の魔女」と呼ばれ、国中の人々から愛されました。
ア リ:しかし、幸せは長くは続きませんでした。
ア リ:とても大きな戦争が起き、多くの人々が傷つき、命を落としていったのです。
フ レ イ:緑の魔女は、必死で傷ついた人々の手当てをしていきます。
フ レ イ:自分が持ちゆるすべての知識を使って。
フ レ イ:しかし、彼女の努力もむなしく、恐ろしいことが起きました。
フレイヤ:それは「伝染病」です。
フレイヤ:「伝染病」は瞬く間に広がっていきました。
フレイヤ:敵、味方に関係なく、多くの人々が命を落としていきます。
:
ア リ:緑の魔女がどんなに頑張ろうと、それを止めることはできなかった。
:
0:テーブルにたくさんの食事が並ぶ。
フ レ イ:さぁ、二人とも座って。
ア リ:とってもいい香りね。
フレイヤ:ねぇ、お兄ちゃん。昨日摘んできた木苺は?
フ レ イ:お前の希望通り、ジャムにしたよ。アリも食べるよね?
ア リ:もちろんよ、フレイのジャムは好きよ。
フ レ イ:それじゃあ……
ア リ:神よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事をいただきます。
ア リ:ここに用意されたものを祝福し、わたしたちの心と体を支える糧としてください。
ア リ:いただきます。
フ レ イ:いただきます。
フレイヤ:いただきまーす!
:
0:食事を始める三人。柔らかな日差しが差し込む食卓は、穏やかな雰囲気が流れる。
ア リ:……ん、このオムレツ。少し雰囲気が違う?
フ レ イ:この前、市場に行ったら、珍しく港町の商人が行商に来ててね。カイソウ?とかいう海の植物を分けてくれたんだ。
それをバターに練り込んだやつを使ったんだよ。
フレイヤ:なんかカサカサしてて美味しくなさそうだったけど、すごい美味しいね!
ア リ:そうなのね、とってもおいしいわ。
フレイヤ:アリは、海って見たことある?
ア リ:一度だけね。でも戦争中だったからゆっくりなんてしていられなかったけど……。
フレイヤ:どんな感じなの?
ア リ:そうね……大きな湖って感じ。
フレイヤ:それなら、この森にもあるよね。
フ レ イ:あんなのなんかよりも、もっともっと大きいんだよ。反対側の岸が見えないくらいでっかいの!
フレイヤ:なんで知ってるのよ、お兄ちゃんだって見たことがないでしょ!
フ レ イ:それは、えっと……。
ア リ:いいのよ、この家の物は好きに使っていいっていったでしょ?
ア リ:書斎の本を読んだのね、フレイは勉強熱心なのね。昔の私みたいだわ。
フ レ イ:アリの部屋の本は面白いものばっかりで楽しい!
ア リ:これからも自由に読んでいいからね。
フ レ イ:ありがとう!アリ!
フレイヤ:ちょっと!質問の答えになってない!
フレイヤ:ねぇアリ、海ってそんなに大きいの?
ア リ:そうね……。
ア リ:とっても大きいわ。フレイの言う通り、反対側の岸なんて全然見えないの。
ア リ:どこまでも、どこまでもキラキラと輝く水が続いていて、太陽が沈んでいくときにはあたり一面がオレンジ色に染まり、夜は星が空にも水面にも輝いて、まるで星空の中にいるみたいよ。
フレイヤ:そうなんだ……見てみたいなぁ!
ア リ:……あなたたちはいつでも見に行けるわよ。元気になれば――
フレイヤ:私はアリと見たい!お兄ちゃんとアリと3人で見たいの!
ア リ:フレイヤ……。
フ レ イ:僕も同意見。アリと一緒じゃなきゃいやだ。
ア リ:フレイ……。でもね、私はここから――
フ レ イ:いまは出ることができなくても、いつか出られるから。僕が……、僕たちがここから出してあげる。
ア リ:……。
フ レ イ:さぁさぁ!冷めちゃう前に食べてよ。アリとフレイヤにおいしく食べてもらうために、僕、頑張ったんだからさ。
ア リ:……そうね、ありがとう。
:
0:モノローグ
フ レ イ:「緑の魔女のせいだ」
ア リ:……違う、私は何もしていない。
フレイヤ:「返して!息子を返して!」
ア リ:……ごめんなさい、救えなくて。
フ レ イ:「魔女は国を滅ぼそうとしているんだ」
ア リ:そんなことっ……そんなこと、考えてないわ。
フレイヤ:「殺さないと、家族のためにあいつを」
フ レ イ:「国のために、あいつを」
ア リ:……やめて、助けて……私は――
フ レ イ:「緑の魔女を」
フレイヤ:「殺せ」
:
:
0:フードを目深にかぶり、リュックを背負って出かける準備をするフレイ。
0:アリとフレイヤは食事の後片付けをしている。
フ レ イ::それじゃあ、僕は街に買い出しに行ってくるね。
ア リ:ごめんね、貴方にばかり任せてしまって。
フレイヤ:いいのよ、お兄ちゃんは体力だけが取り柄なんだから。
フ レ イ:お前なぁ、そんなこと言ってるとお土産買ってきてやらないからな。
フレイヤ:え、ヤダ!ちゃんと小麦粉買ってきてよ!アップルパイが食べたい!
フ レ イ:だったら、さっきの発言を取り消せ。
フレイヤ:体力バカなのは本当じゃない。
フ レ イ:……(じっと睨む)
フレイヤ:……あぁもう、ごめんなさい!お兄様!お願いします。
フ レ イ:よろしい。
ア リ:気を付けていってきてね。
フ レ イ:任せて。
ア リ:子供のあなたに任せて……本当にダメな大人ね、私。
フ レ イ:いいんだよ!僕が好きでやってることなんだからさ。
フ レ イ:それじゃあ、行ってくるからね(手の甲にキス)
ア リ:いってらっしゃい。精霊の加護があらんことを。
:
:
0:キッチンで薬草入りのお菓子を作っているアリ。
フレイヤ:アリ!(抱き着く)
ア リ:ちょっと、フレイヤ。こぼれちゃうじゃない。
フレイヤ:ごめんごめん、それより、見て!
ア リ:あら、ヨモギじゃない。いいわね。
フレイヤ:頑張って摘んできたんだ。アリの蒸しパンに入れたらおいしいかなって。
ア リ:いいアイディアね。
フレイヤ:アリのお菓子は本当においしいからなぁ。
ア リ:そう言ってくれると嬉しいわ。
フレイヤ:なんでお菓子だったの?
アリ:え?
フレイヤ:どうしてお薬をお菓子にしようって思ったのかなって。
ア リ:……そうね。フレイヤには、まだ話したことがなかったわね。
ア リ:昔ね――
:
0:モノローグ
ア リ:薬はとても高価で貴重なものだった。
フレイヤ:だから貧しい庶民は、病気になっても薬を使うことができなかった。
ア リ:それでも、私は助けたかった。
ア リ:どんな身分であっても、命はたった一つしかないから。
フレイヤ:でも薬を庶民が使うことは禁止されていた。
ア リ:だから私は、お菓子を配ることにした。
ア リ:薬になるお菓子を。
フレイヤ:甘いお菓子は、人々を笑顔にした。
ア リ:薬草もたっぷりだから、みんな元気になっていった。
フレイヤ:「緑の魔女様のお菓子は世界一、不思議な力が込められた魔法のお菓子」
ア リ:一口食べれば、お腹は満たされ。
ア リ:二口食べれば、元気になれる。
:
0:森の中、小さなうめき声と血しぶきの音。
0:どさりと複数の何かが倒れる音がする。
フ レ イ:困るんだよね、この森に入ってくるなんて。
フ レ イ:ここに入ってきていいのは、彼女を必要とする小さな魂だけ。
フ レ イ:……この森を、彼女を穢すやつは誰であろうと許さない。
フ レ イ:……あれ、なんだ、まだ生きてたんだ。しぶといね。
フ レ イ:でも口はきけないみたいだね。おしゃべりができるようなら誰の命令か聞きたかったけど……。
フ レ イ:川下の村のやつかな、それとも隣の山を越えた村のやつ?
フ レ イ:でもこの人数なら国王の差し金かなぁ。
フ レ イ:まぁどうでもいいけどね。
フ レ イ:アリアドネは、僕らが守るから。
:
0:ぼんやりとするアリ。フレイヤがそっと服の裾をひっぱる。
フレイヤ:……り、アリ?大丈夫?
ア リ:あぁ、ごめんなさい。ちょっと昔のことを思い出してしまって――
フレイヤ:(抱きしめる)大丈夫だよ。アリは何も悪くない。
ア リ:フレイヤ?
フレイヤ:私はアリが大好き。
フレイヤ:アリの作るお菓子も大好きだし、その透き通った声も好き。
フレイヤ:陽だまりみたいな笑顔も好き。
フレイヤ:柔らかな長い髪が好き、すぐに不安になっちゃうところも好き。
フレイヤ:全部、全部、大好きだよ。アリ。
ア リ:ありがとう。あなたたちがうちに来て、私は本当に幸せよ。
ア リ:……元気になったら、おうちに返してあげなきゃいけないのに……。
ア リ:あなたたちの優しさに甘えてしまって、ごめんなさい。
ア リ:でも私も、あなたたちが大好きよ。
:
0:モノローグ
フレイヤ:緑の魔女が薬を庶民に配っている。
フレイヤ:そんな話が貴族たちの耳に届くのは時間の問題でした。
フレイヤ:さらに彼女を「聖女」として崇めるものも徐々に増えていき、貴族たちはそれを疎ましく思うようになりました。
フ レ イ:そんな状態で戦争が起きたのです。
フ レ イ:彼女は懸命に人々のために働きました。そして彼女の存在は「神」にも匹敵するものでした。
フ レ イ:それをよく思わない人々が、ある村で起きた「病気」を「彼女のせい」にしました。
フレイヤ:「緑の魔女が毒を配っている」
フ レ イ:「国を滅ぼそうとしている」
フレイヤ:「この病も、緑の魔女がばらまいたものだ」
フ レ イ:「魔女を殺せ」
フレイヤ:「魔女を殺せ」
0:少し間
ア リ:私は、何が起きたかわからず、命からがら、この森に逃げ込んだ。
ア リ:人が容易に入り込むことができない迷いの森に。
ア リ:そしてこの命が尽きるまで、静かに暮らすことにした。
:
0:ガチャリとドアが開き、リュックにいっぱいの荷物と小さな子供を抱えたフレイが帰宅する。
フ レ イ:アリ、フレイヤ、ただいま。
ア リ:おかえりなさ……その子は……。
フ レ イ:森の中に倒れていた。たぶん捨てられたんだと思う。
ア リ:……ひどい状態。フレイヤ、お湯とタオルを持ってきて。
フレイヤ:わかった、急いで持ってくる。
ア リ:フレイ、悪いけど裏の畑からいくつか薬草を持ってきてくれる?あとおかゆの準備も。
フ レ イ:わかったよ。すぐに準備する。
ア リ:……大丈夫、大丈夫よ。怖くないから……、貴方はもう、大丈夫。
:
:
0:ベッドですやすやと眠る子供の隣に座るアリ。
0:そこにフレイとフレイヤが入ってくる。
フ レ イ:アリ、お疲れ様。
ア リ:二人とも、ありがとう。
フレイヤ:……この子、助かるかな……。
ア リ:………難しいでしょうね。かなり進行してしまっている。持って数日でしょう。
フレイヤ:……そっか、アリのおいしいお菓子、あんまり食べられないね。
アリ:そうね……でも、少しでもおいしいものを食べさせてあげましょう。
フ レ イ:そうだね、お腹いっぱい食べさせてあげよう。
:
:
0:モノローグ
フ レ イ:帰らずの森、迷いの森。
フレイヤ:緑の魔女が住まう森は、いつしかそんな風に呼ばれるようになった。
フ レ イ:迷い込んだら最後、魔女が迷い人を食べてしまう。
フレイヤ:だから森には決して近づいてはいけない。
:
ア リ:一人で静かに暮らしたかった。だから誰も来ないことは私にとって幸せだった。
ア リ:でも、人はきた。
ア リ:幼い子供、病いで死にかけた人。
ア リ:私は、その人たちを助けようと頑張った。
ア リ:でも……ここにたどり着くころにはもう命の灯火が消えかけていた。
:
0:湖のほとり。小鳥がさえずり、穏やかな風が頬をなでる。
0:アリ、フレイ、フレイヤが真っ白な花束を抱えてたたずんでいる。
:
ア リ:よく頑張ったわね、ゆっくりおやすみ。
フレイヤ:最後、アリのお菓子をおいしそうに食べてたね。
フ レ イ:うん、幸せそうに笑ってた。
ア リ:……この子は……少しでも幸せになれたかしら。
フ レ イ:なれたよ、絶対に。アリのおかげでね。
フレイヤ:そうだよ!私たちもアリのおかげで幸せだもの。この子も絶対、幸せだったと思う。
ア リ:……だといいな……。
:
:
ア リ:いつまで……続くのかな……。
:
:
フ レ イ:アリ?
ア リ:……いつまで、最後を見届け続けなければいけないのかなって。
フレイヤ:……アリは、いま、幸せじゃない?
ア リ:……わからない。
ア リ:あなたたちといられるのはとても幸せよ。毎日が楽しくて、穏やかで、本当に幸せ。
ア リ:でもあなたたちもいつか、いなくなってしまって、また私一人になってしまうんじゃないかって。
ア リ:みんな私を置いていってしまう。
ア リ:それが……とても怖いの。
:
フ レ イ:いなくなったりしないよ。
フレイヤ:そうだよ、そもそも帰る場所なんて元々ないんだ。捨てられたから。
ア リ:………。
フ レ イ:僕たちは、アリだけが大事。
フ レ イ:だから大切なアリが悲しむことは絶対にしない。
フレイヤ:どこにもいかない、ずっと一緒にいる。
フレイヤ:だからアリも、ずっと一緒にいてくれる?
ア リ:フレイ……、フレイヤ……。
ア リ:もちろんよ、あなたたちが大好き。
:
:
フ レ イ:欲にまみれて、貴女を傷つけるものは
フレイヤ:私たちが、すべて、排除してあげるから
:
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0:物語
フ レ イ:しさのあまり幼い兄妹は、魔女のいる森に置き去りにされました。
フレイヤ:幼い兄妹は森を彷徨い、一軒のお菓子でできた家を見つけました。
アリ:あまりにもお腹がすいていた兄妹は、夢中でお菓子の家を食べ始めました。
フ レ イ:クッキーの壁、飴細工の窓、チョコレートでできた庭木。
フレイヤ:夢中で頬張るあまり、家の主が返ってきたことに気づかなかった兄妹。
フ レ イ:家主である、緑の魔女が訪ねます。
:
ア リ:「おなかがすいたのね、どうぞ中に入って。元気になるお菓子がたくさんあるから」
:
フ レ イ:魔女はそういうと、兄妹に湯あみをさせ、暖かい食事と飛び切りの甘いお菓子をふるまい、ふかふかの寝床を用意しました。
フレイヤ:そんな彼女の姿に、兄妹は強く惹かれ、彼女を守ることを決意しました。
:
ア リ:こうして、緑の魔女は3人でいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
:
:
0:暗転
フ レ イ:アリアドネ。
フレイヤ:愛しているわ。
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