三毛猫骨董品店―ルドルフの想い―
登場人物紹介
葉月:朝比奈葉月(あさひな はづき)。三毛猫骨董品店店長。しっかり者のお姉さん。
睦月:泉龍寺睦月(せんりゅうじ むつき)。三毛猫骨董品店副店長。気さくなお兄さん。
雪菜:しっかりしようとしているが母親に甘えたい女の子(桔梗と兼ね役)
桔梗:。三毛猫骨董品店の新人店員。おっちょこちょいで可愛い子。(雪菜と兼ね役)
冬樹:妻を亡くして娘のために仕事ばかりする男性。(遥都と兼ね役)
遥都:三毛猫骨董品店の店員。沈着冷静マイペースな小悪魔。(冬樹と兼ね役)
0:それでは思うままに、演じてください。3・2・1…Act
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桔梗:「モノ」には魂が宿る
遥都:ツクった人の想いが、ツカった人の想いが
葉月:「想い」はカタチとなり、私たちに「想い」を訴えかける
睦月:ここは、「想いが込められたモノ」を扱う不思議なお店
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桔梗:いらっしゃいませ
遥都:三毛猫骨董品店へようこそ。
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0:閉店間際の三毛猫骨董品店。
葉月:お待たせいたしました。こちらでいかがでしょう。
冬樹:はい……。とても素敵です。ありがとうございます。
葉月:娘さんへのプレゼントですか?
冬樹:えぇ……いつも淋しい想いをさせてしまっていて……。人形で喜ぶ年でもないのかもしれませんが。
葉月:そんなことありませんよ。お客様の想いはきっと伝わります。
冬樹:そう……ですかね。
葉月:えぇ。この人形もきっとそんな想いを感じてお客様を呼んだんだと思います。
冬樹:呼んだ?
葉月:あぁすみません。うちの商品をご購入される方は、皆さん口を揃えて「惹かれた」とおっしゃるものでつい。
冬樹:……確かに。引っ張られるようにこちらの店に入って、気がついたらこの人形を手に取っていました。
冬樹:最初はゲームを買おうかと思っていたのに……これがいいって思ったんですよね。
葉月:そうでしたか……、ありがとうございます。
葉月:はい、どうぞ。素敵なクリスマスを。
冬樹:ありがとうございます。
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0:冬樹と入れ替わるようにお遣いから帰ってくる桔梗と睦月。
桔梗:葉月さん!ただいま戻りました。
睦月:はぁ……冷えた冷えた。まったく、今日の寒さは尋常じゃないな。
桔梗:だからマフラーと手袋持って行った方がいいって言ったじゃないですか。
睦月:すぐそこの店に行くのに、そんな厚着しなくてもさ。
桔梗:ダメですよ!風邪ひいたら大変ですよ?
睦月:桔梗ちゃんは女の子だから冷えないように、厚着するのは当たり前だけどさ。
睦月:俺、男だし。別にこんくらいで風邪なんて――
桔梗:だから!男とか女とか関係ないですって!
桔梗:それに睦月さんが風邪を引いて一番困るのは葉月さんなんですよ?
睦月:そんなこと――
桔梗:あります!
桔梗:この忙しい時期に倒れでもしたら、睦月さんの看病とお仕事で、葉月さんパンクしちゃいます!
葉月:桔梗ちゃん、ありがとう。
葉月:でもいいのよ、自己管理もできない社会人の面倒なんて見ないから、パンクなんてしないわ。
睦月:は、葉月?
葉月:風邪をひかない自信があるから、そんな薄着で行ったのよね、睦月くん?
睦月:えっと……あの~……
葉月:睦月くんは健康には自信があるんだもんね♡
睦月:あの、葉月さん……その……
遥都:葉月さん、商品の箱詰め終わりました……って、あれ?
桔梗:あ、遥都くん。
遥都:あぁ桔梗、お帰り。あの……これ、どういう状況?
桔梗:えっとね……でね、……で、……というわけで……。
遥都:なるほど……睦月先輩ってやっぱり懲りない人だなぁ。
桔梗:え?どういうこと?
遥都:睦月先輩ね、去年も出かけるときにいつも薄着で出かけてさ。
遥都:最終的に、風邪引いたんだよね。
桔梗:え、そうなんだ。……それで?
遥都:クリスマス前の最後の日曜日は、葉月さんと僕の二人で店を回してさ――
葉月:それはそれは大変な思いをしたってわけ。
桔梗:あ、葉月さん。
睦月:去年は悪かったって!これくらい平気かなって思ってさ。
葉月:……睦月くん、いつもそう言って体調崩すじゃない。
睦月:だからごめんって言ってるじゃねぇか。
桔梗:……睦月さんって、しっかりしてるところもあるのに、抜けているというか詰めが甘いというか。
睦月:え?桔梗ちゃんまで……なんか、視線冷たくない?
遥都:睦月先輩の自業自得ですね。
睦月:遥都くんまで!俺に味方はいないのかよ!
葉月:いるわけないでしょ!だからちゃんとしてよね?一人の身体じゃないんだから。
睦月:へ?
桔梗:……葉月さん?
遥都:……。
葉月:ん?……あ、ち、違う!そういう意味じゃなくって!
葉月:睦月くんが倒れたら、遥都くんや桔梗ちゃんに負担がかかるからって意味で!あの!
睦月:葉月……ごめんな。
葉月:なんか優しい声で言うな!
桔梗:……なんか、こんな葉月さん初めて。可愛い……
遥都:うん。僕もあんまり見たことなかった。
葉月:ちょっと!桔梗ちゃん?遥都くんまで!
睦月:葉月、俺……ちゃんとするからさ。
葉月:そんなもん社会人として当たり前です!
桔梗:……あれ?ここにあったトナカイの人形……
葉月:え?あぁ……さっき、二人と入れ違いで帰られたお客様が購入していったわ。
遥都:前の持ち主は、お母さんと二人暮らしの男性でしたっけ。
桔梗:息子さんが結婚して家庭を持つことになって……
桔梗:人形が次の場所に行きたがってるからって、うちに持ってきたんですよね。
睦月:たくさんの家族を見守り続けたトナカイの人形か。
葉月:ほんの少ししか知らないけれど、このトナカイ人形を贈られた子供は、みんな幸せな人生を送ったみたいね。
遥都:幸運を呼ぶトナカイ人形なんですね。
睦月:でもな、こいつが選ぶ家庭は条件があって――
葉月:睦月くん、その話は別にいいんじゃない。家族の幸せを導くトナカイ人形。それでいいじゃない。
桔梗:どんな方が買われていったんですか?
葉月:お父さんよ。娘さんへのプレゼントですって。
遥都:……あぁあの男性のお客様でしたか。
葉月:……えぇ、そう。
睦月:ん、葉月?どうかしたか?
桔梗:遥都くんも……どうしたの?
遥都:いや、なんでもないよ。でも……ちょっとね。
葉月:あら、遥都くんも気づいた?
遥都:えぇ……でもきっと、あのトナカイが何とかしてくれますよ。
葉月:そう、ね……きっとね。
桔梗:……?
睦月:……?
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0:都内某マンションの一室。
冬樹:まっすぐ帰る予定が会社にとんぼ返り……。結局今日も午前様か。
冬樹:(静かに)ただいまぁ。
雪菜:……お父さん、お帰り。
冬樹:雪菜……、ごめんな。夕飯食べるって言ったのに帰ってこられなくて。
雪菜:いいよ、仕事だし。
冬樹:……先に寝てなさいっていったのに。
雪菜:……だって、最近いつもお父さんとすれ違いだったから。
冬樹:ごめんな……。
雪菜:ううん、大丈夫だよ。
冬樹:そうだ、これ。
雪菜:……プレゼント?
冬樹:一足早いけど、クリスマスプレゼント。
雪菜:え?
冬樹:本当はゲームとかの方がいいかなとも思ったんだけど……なんか惹かれちゃって。
雪菜:お父さんが選んでくれた物なら何でも嬉しいよ!
雪菜:開けてみていい?
冬樹:ははは、どうぞ。
雪菜:………トナカイ?
冬樹:……人形ってどうかとも思ったんだけど――
雪菜:嬉しい!ありがとう。
冬樹:そうか。
雪菜:……すごく、暖かい感じがする。
冬樹:そうだな、父さんもそんな雰囲気に惹かれて選んだんだ。
雪菜:お父さん……ありがとう、大切にする。
冬樹:あぁ。
雪菜:……あの、お父さん、……あのね。
冬樹:ん?なんだい?
雪菜:えっとね、クリスマスなんだけどね。
冬樹:あぁごめん……二日間とも大事な仕事があってね……多分、遅くなる。
雪菜:あ……そっか……あはは、そうだよね。
冬樹:……ごめんね。
雪菜:大丈夫だよ。お仕事だもん、仕方ないって。
冬樹:いつもごめんな。
雪菜:お父さん……
冬樹:でも雪菜のために、頑張るからさ。
雪菜:えっと……
冬樹:雪菜に苦しい思いなんてさせないから。
雪菜:……。
冬樹:雪菜のために、父さん頑張るからさ。
雪菜:(呟く)……違う、そんなの……
冬樹:雪菜が何の心配もなく、安心して暮らせるためにもしっかり――
雪菜:お父さんのバカ。
冬樹:え?
雪菜:お父さんのバカ!
冬樹:雪菜?
雪菜:どうして……わかってくれないの。
冬樹:雪菜……
雪菜:私が欲しいのは……私は!
雪菜:(はっと我を取り戻す)
雪菜:………もう寝る。お父さんなんて知らない……。
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冬樹:(モノローグ)
冬樹:妻を亡くして三年。
冬樹:母親を失った悲しみを抱えたままの雪菜を置いて仕事にいくことは辛かった。
冬樹:それでも雪菜の幸せのためには、稼がなければならなかった。
冬樹:不景気でどんどん仕事も減って、正直苦しい。
冬樹:でも雪菜には、いつでも笑顔でいてほしいから……
冬樹:雪菜が世界で一番大切だから……
冬樹:僕は必死で働いた。
雪菜:(モノローグ)
雪菜:お母さんがいなくなって三年。
雪菜:お父さんは仕事で、毎日遅くまで帰ってこなくなった。
雪菜:私のために、私が苦労しないようにって一生懸命なのはわかる。
雪菜:お仕事が大変なこともすごくわかる。
雪菜:だから我儘は言えない。
雪菜:でも……本当は一緒にいてほしい。
雪菜:贅沢な暮らしなんかいらない。何もいらない。
雪菜:お父さんと二人で……二人の時間が欲しい。
雪菜:だけど……困らせたくない、心配かけたくない。
雪菜:お父さんが世界で一番大好きだから……
雪菜:私は必死で我慢した。
雪菜:
雪菜:でも……
雪菜:
雪菜:私の想いは爆発してしまった
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0:夕方の商店街を歩く葉月と睦月。
睦月:はぁ……今日も相変わらず寒いなぁ。
葉月:今夜は今年一番の寒さらしいわよ?
睦月:雪でも降りそうだな、こんな寒いと。
葉月:そういえば……今朝の天気予報で言ってたような。
睦月:そうだっけ?
葉月:睦月くん、寝起きでぼーっとしてたもんね。
睦月:今週はずっと忙しいからな。
葉月:でも朝食食べながら寝るのはやめてよね。
睦月:あぁ……悪い。
葉月:昨日もメープルシロップ、服にこぼしてたでしょ。
睦月:ばれた?
葉月:こぼすのはいいけど、ちゃんと言ってよね?洗濯の時に気をつけなきゃいけないんだから。
睦月:へいへい……あぁところで葉月。
葉月:何?
睦月:……俺の気のせいじゃなければ、この気配。
葉月:……あ、これって。
睦月:あのトナカイ人形じゃないか?
葉月:うん……でも……苦しそう。
睦月:あっちの公園の方だ。
葉月:行ってみよう。店は桔梗ちゃんと遥都くんがいるから大丈夫だろうし。
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0:公園で一人泣いている雪菜。
雪菜:普通って何?
雪菜:確かに私のうちはみんなとは違うよ!
雪菜:お父さんしかいないし、クリスマスだって……一人だけど……
雪菜:それってそんなに変なこと?
雪菜:それって普通じゃないってこと?
雪菜:うちが変だって言いたいの?なんで?どうして?
雪菜:なんで……うちは違うの……
雪菜:どうして……みんなと……違う、の……
葉月:雪菜……ちゃん?
雪菜:っ!
葉月:あの……あなた、雪菜ちゃん……よね?
雪菜:えっと……お姉さん……誰?
葉月:あ、ごめんなさい。いきなり知らない人に話しかけられたら驚くもんね。
雪菜:……あの……。
葉月:そうだなぁ……あ、トナカイの人形。
雪菜:え……お姉さん、知ってるの?
葉月:えぇ。あなたのお父さんが、うちのお店であなたの為に選んだ人形だもの。
雪菜:私の……ために?
葉月:ラッピングするときね、お父さんが雪菜ちゃんのこと……色々話してくれたの。
雪菜:私…の?
葉月:うん、頑張り屋で、優しくて自慢の娘って言ってた。
雪菜:………。
葉月:いつも我慢ばかりさせてしまって……。
葉月:だから少しでも淋しくないように、自分の代わりにそのトナカイを選んだの。
雪菜:……この子、を?(カバンから取り出す)
葉月:そう……雪菜ちゃんとお父さんを繋げてくれるトナカイ。
雪菜:……お父さん、と?
葉月:うん。……ねぇ、よく耳を澄ませてみて?
雪菜:耳を?
睦月:はぁはぁ……葉月、こういう時だけ足早ぇんだから。
葉月:睦月くん。
雪菜:……えっと、あの、お兄さんは……
葉月:大丈夫、この人は私のお友達。
睦月:初めまして、こんにちは。俺は、泉龍寺睦月といいます。
葉月:あぁそうだったわね。私は、朝比奈葉月。そのトナカイの人形がいた三毛猫骨董品店っていうお店の店長をやっています。
雪菜:私の名前は雪菜です。
雪菜:………あの、葉月、さん。
葉月:なぁに?雪菜ちゃん。
雪菜:耳を澄ませると……何が聞こえるの?
葉月:大切な想いが、聞こえると思うよ。
葉月:……睦月くん。お願いできる?
睦月:あぁ、任せとけ。
睦月:雪菜ちゃん。ちょっとだけ、そのトナカイの人形を貸してくれるか?
雪菜:えっと……はい。
睦月:ありがとう。
睦月:そんじゃあ、よく見てろよ!こいつに込められた大切な想い……。
雪菜:あ……トナカイさんが……光ってる。
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冬樹:雪菜……
雪菜:お父、さん?お父さんの声!
冬樹:いつも淋しい思いをさせてごめん。
雪菜:……本当だよ、淋しいよ……お父さんと一緒にいたい。
冬樹:雪菜、大好きだよ。父さんと母さんの大事な大事な宝物だ。
雪菜:私も大好き……お母さんも、お父さんも……
冬樹:雪菜の幸せを一番に思っているよ。
雪菜:お父さん……
冬樹:雪菜……君の気持が知りたい。
雪菜:……。
冬樹:きっといっぱい我慢させてしまっているんだろうね。
雪菜:……。
冬樹:雪菜が何を望んでいるのか……それが知りたい。
冬樹:雪菜を幸せにしたいんだ。
冬樹:でも……雪菜のためにも仕事をしなきゃいけない。
冬樹:雪菜、ごめん……大好きなのに傍にいられなくてごめん。
雪菜:お父さん……そんなこと……
冬樹:……だからどうか、少しでも淋しくないように……
冬樹:雪菜を……守ってやってほしい。傍にいてやってくれ。
冬樹:僕の想いを……どうか……雪菜に。
冬樹:雪菜、愛しているよ。
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葉月:……雪菜ちゃん?
雪菜:……聞こえた……お父さんの気持ち……。
睦月:温かいな、君を想うお父さんの気持ち。
雪菜:……お父、さん。お父さん……お父さん……。
葉月:よしよし。雪菜ちゃんは本当にお父さんが大好きなんだね。
雪菜:昨日、酷いこと言っちゃった……お父さんに、私。
睦月:そしたら謝ればいいんだよ。
雪菜:え?
睦月:ごめんなさいって素直に言えばいいだけだろ?
睦月:それに、さっきお父さんの声聞こえたじゃないか。
睦月:素直に言ってほしい、我慢しないでほしい、何よりも大事なのは君だって。
雪菜:……でも。
葉月:大丈夫よ、きっと伝わるわ。
雪菜:……伝わる、かな。
葉月:えぇ、大丈夫。だって……ね?
睦月:お父さんの想いが詰まったこいつが君の傍にいるんだから。
雪菜:……トナカイ、さん。
葉月:さぁ……素直な想いを伝えてごらん。
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0:三毛猫骨董品店店内。ソファーで寝息を立てる雪菜。
冬樹:あの、すみません!雪菜がこちらにお邪魔してると伺って!
睦月:いらっしゃいませ。
睦月:あぁ雪菜ちゃんのお父さんですか?いま、疲れて寝ちゃってます。
葉月:いらっしゃいませ。お仕事中に申し訳ありません。
冬樹:いえ、いいんです……。それより娘が。
葉月:大丈夫ですよ。それよりも、傍に行ってあげてください。
冬樹:はい。……雪菜。
雪菜:ん……んん?……お父、さん?
冬樹:……ごめんな、昨日。
雪菜:お父さん……私もごめん。
冬樹:雪菜……
雪菜:お父さん……あのね、私ね。お父さんとクリスマスパーティーしたい。
冬樹:雪菜……。
雪菜:お母さんとお父さんと三人で過ごしたクリスマスみたいに……
雪菜:チキン食べてケーキ食べて……
雪菜:プレゼントとかはいらない……御馳走じゃなくていい……
雪菜:お父さんと……いたい。
冬樹:……あぁ、そうだな……ごめん。そうだよな。
冬樹:ダメなお父さんでごめん……。淋しい想いさせて……
雪菜:ううん、いつも私のためにありがとう。
雪菜:でも私は、お父さんがいれば……それだけで幸せだよ?
冬樹:……雪菜、ありがとう。
雪菜:お父さんの想いは、トナカイさんが教えてくれたから。
冬樹:え?
葉月:冬樹さんがお買い上げになったトナカイの人形なんですけどね。
葉月:代々、片親家庭を渡り歩いてきたトナカイ人形なんです。
冬樹:……そうなんですか?
睦月:……赤鼻のトナカイって曲知ってます?
冬樹:えっと、童謡の?
葉月:えぇ。
葉月:真っ赤なお鼻のトナカイさんは、いつもみんなの笑いもの。
葉月:みんなが知っているクリスマスソングです。
睦月:そのトナカイ人形は、この曲を……いや、この物語を書いたロバート・メイって人が娘に贈ったトナカイ人形なんです。名前は「ルドルフ」。
冬樹:ルドルフ……。
葉月:赤鼻のトナカイ……。ルドルフのお話は、みんなと違うことを悲しんでいたルドルフが、サンタさんの役に立って、違っていてもいいんだ。
君は君のままが素晴らしいと教わって喜んだっていうお話なんです。
睦月:ロバートは妻に先立たれて、男手一つで娘を育てるために必死に働いた。
睦月:でもそのせいで娘に淋しい思いをさせてしまった……。
睦月:ロバートは、大切な娘が淋しくないように、娘の笑顔のために、この物語を考えた……。
葉月:そして生まれたのがこの人形。ルドルフなんです。
冬樹:……まるで、いまの僕たちみたいですね。
葉月:きっと、冬樹さんの雪菜ちゃんを想う気持ちがルドルフに届いて、そして冬樹さんを呼んだんでしょうね。
冬樹:あの……ロバートと娘さんは……その後。
葉月:もちろん、幸せに暮らしましたよ。
睦月:ルドルフがいた家庭は、みんな笑顔の絶えない幸せな家庭なんですよ。
冬樹:……幸せな家庭。
葉月:えぇ、だから大丈夫です。ルドルフが冬樹さんと雪菜ちゃんのことをちゃんと繋いでくれます。
冬樹:……。
葉月:耳を傾ければ必ず聞こえます。雪菜ちゃんの素直な気持ちが。
冬樹:そうですね。
葉月:幸せの形は色々です。
葉月:だから、お二人だけの幸せの形をどうか築いてください。
冬樹:……ありがとうございます。
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:
0:間
冬樹:本当に何から何までありがとうございました。
雪菜:葉月さん、睦月さん……あの、ありがとうございました。
睦月:どういたしまして!
睦月:雪菜ちゃん、ちゃんとお父さんに気持ちを素直に伝えるんだぞ!
雪菜:はい!
葉月:冬樹さんも。ルドルフがいても、想いは言葉にしないとちゃんと伝わらないですから。
冬樹:えぇ、ちゃんとすべて言葉にします。そして雪菜の言葉に耳を傾けます。
冬樹:雪菜、さぁ帰ろう。
雪菜:うん。
冬樹:今日は夜更かししようか。そして明日はクリスマスパーティーしよう。
雪菜:え、お仕事は?
冬樹:……変わってもらった。雪菜と過ごす時間の方が大切だから。
雪菜:お父さん……ごめ――
葉月:雪菜ちゃん、そういうときは……
雪菜:……お父さん!ありがとう!
冬樹:お二人とも、本当にお世話になりました。
雪菜:ばいばい、またね。
葉月:よいクリスマスを。
睦月:よいクリスマスを。
冬樹:はい。
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:
0:再び静かになった店内。
葉月:睦月くん、色々ありがとね。
睦月:ん?何が?
葉月:伝える力を使ってくれて……
睦月:あぁ……あんなの朝飯前だよ。
葉月:それにしても何度も見ても、睦月くんの力はすごいわね。
睦月:そうか?
葉月:そうよ……だってあれだけ沢山の想いの中から、「冬樹さんの想い」だけを増幅させてさ。
睦月:う~ん……感覚でやってるからなぁ。よくわからん。
葉月:ふふ、繊細なんだか雑なんだか……
睦月:それ、褒められてんの?
葉月:褒めてるわよ。睦月くんのすごいところ!尊敬するところ……好きなところ。
睦月:……おう、ありがと。
睦月:それにしても……あの時に気にしてたのは、このことだったんだな。
葉月:えぇ、冬樹さん……雪菜ちゃんの思う気持ちは強いのに、なんかすれ違ってる感じがしたのよね。
睦月:ルドルフが行くところは大体そんな場所だからな。
葉月:そうね。冬樹さんに纏わりついてる雪菜ちゃんの「遠慮した想い」がすごく気になってたの。
睦月:それを遥都くんと葉月は気づいたってわけか。
葉月:うん、だからね。大丈夫かなって心配だったの。
睦月:あの親子……お互いに想い合ってのに大事なところを遠慮してすれ違って……。
葉月:ルドルフがまさか助けを求めるなんてびっくりしたわ。
睦月:まぁ俺たちの気配に気づいて呼んだんだろうな。
葉月:だから……本当にありがとう。
睦月:俺の力はこういう時の為にあるんだから、当たり前だろ。
葉月:もうこれであの二人は大丈夫よね。
睦月:ちょっとだけ、ルドルフに俺の力も分けてやったからな!
葉月:え?そんなことしたの?
睦月:ちょ、ちょっとだけだよ!
葉月:もう!大事な力を……それで睦月くんが倒れたら!
睦月:そのときは、葉月が看病してくれるんだろ?
葉月:……あと一日は頑張ってよね。倒れるなら明日終わってからにして。
睦月:はいよ。……なぁ葉月。
葉月:睦月……くん。
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桔梗:あぁ!葉月さん達ようやく帰ってきた!
葉月:き、桔梗ちゃん!ごめんね、遅くなって。ただいま。
遥都:桔梗~、あともう一つ仕込み……って睦月先輩たち、帰ってきてたんですか。
睦月:遥都く~ん!ごめんな、遅くなって。淋しかった?
遥都:淋しくはないですが、疲れたんで近寄らないでください。
睦月:遥都くん、冷たい!
桔梗:……あれ?なんだか、お店の中……すっごく甘い想いが……
遥都:桔梗?ちょっと、何いきなり酔ってるのさ!
桔梗:あったかい……ぽかぽかする。
遥都:ちょっと、桔梗!
葉月:仕事の疲れもあって余計に影響されちゃったか……
睦月:後は俺たちでやるから、二人はもう上がっていいぞ。
桔梗:はぁい。
遥都:ありがとうございます。じゃあ、桔梗。帰ろうか。
桔梗:うん!おうち帰る!
葉月:明日は少しゆっくりでいいわよ。混むのはお昼くらいだから。
遥都:はい、わかりました。
睦月:じゃあ、二人ともお疲れ様。
桔梗:お疲れさまでした~。ふふふ、幸せぇ~。
遥都:はぁ……桔梗、ほらしっかりして。
遥都:じゃあ葉月さん、睦月先輩。お疲れさまでした。
葉月:えぇまた明日。
桔梗:あ!葉月さん、睦月さん、遥都くん!
桔梗:メリークリスマス!
睦月:ははは、メリークリスマス。
遥都:はいはい、メリークリスマス。
葉月:……メリークリスマス。大切な想いが大切な人に伝わりますように……。
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桔梗:「モノ」には魂が宿る
遥都:ツクった人の想いが、ツカった人の想いが
葉月:「想い」はカタチとなり、私たちに「想い」を訴えかける
睦月:ここは、「想いが込められたモノ」を扱う不思議なお店
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睦月:いらっしゃいませ、三毛猫骨董品店へようこそ。
葉月:あなたの「想い」は、何ですか?
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